これからのマーケターに求められるのは”経営トップに合わせた視座”
“投資としてのマーケティング”という捉え方で見ると、マーケターとしては、たとえば「Amazon Dash」というプロダクトをどのように捉えるのかは重要であると思います。特に、機能的な差別化が難しい消費財などのプロダクトは、ブランドの要素が購買理由の多くの割合を占めており、また一度購入するとブランドスイッチが起きにくい。そのため、ブランドを認知・スイッチさせるための広告投下予算も他業界に比較して非常に大きいです。
マーケターとして、「Amazon Dash」というプロダクトが、ユーザーの生活用品が切れてしまったというモーメントを押さえ、多少価格が高くても購入させることができる投資対象である認識を持つことができるかが重要です。「Amazon Dash」でユーザーを囲い込むことができ、さらにセールをせずに購入してもらえるのであれば、通常の広告予算を減らしてでも予算を投下することが中長期的な”投資”としては非常に効率がいい可能性があるということを選択肢として捉え、決断できるかどうかが求められます。
ライフタイムバリュー(LTV)で見たときに、同じ10億円であれば広告の媒体費としてただ投下するのと広告に加えて上記のような施策を合わせて実施したほうがROIとして優れているのか。シンプルにいえば、今後、マーケターにもそのような経営と密接した決断を迫られることになります。
こうした環境の変化は、組織全体のパフォーマンスも向上させないと乗り切ることができません。さらに、自社のトップから協力企業となる代理店まで、様々な役割の人を巻き込んで、最適な選択肢を採用する。そうした役割を果たせるように、マーケター自身が視座を上げていかなければなりません。
「課題設定力」×「分析力」×「オーケストレーション力」がカギ
こうした変化の中でマーケターに求められる要件とは、「課題設定力」と「正しいデータに基づく分析」だと考えています。
「課題設定力」とは、マーケターが表面的な問題に左右されず、いかに「本質的な課題」を設定できるか、ということです。
たとえば「広告予算をどのように配分するか」というのは“費用”的な考え方であり、本質的な課題設定ではありません。いかに、“会社の売上拡大”や”顧客の創造”という本質的な課題に紐付いた課題設定を行い、それに基づくマーケティング施策を行うかが、“投資としてのマーケティング”だといえるでしょう。
そして、課題を設定するには、「正しいデータに基づく分析」が必要です。しかし、大手の流通企業でも「実は自社のMDデータを活用できていなくて……」といった悩みはよく耳にします。現在保有しているデータだけを取っても、分析しきれている企業は意外と少ないものです。
また、自社で保有していている1st Partyデータを理解して分析する、保有しているデータがない場合はパブリックDMPの活用を検討するなど、最初から大規模なプライベートDMPの構築ありきで考える必要はありません。
たとえば、広告収益を中心とするアプリディベロッパーでは、アプリのDAU(デイリーアクティブユーザー)の伸長が鈍化していることが課題になっていました。競合アプリの状況も踏まえた事業戦略上、このタイミングでDAUを大きく拡大することが必要であるという考え方のもと、数億円の大規模広告投資を行うことを検討していました。
ネット広告だけでは、目標とする期間でのDAU数の獲得は難しいことがシミュレーションでわかったことから、このアプリディベロッパーではTVCMのデジタル化に取り組みました。TVCMのクリエイティブ・配信時間帯・曜日・エリアなどを配信の実績データ・コンバージョンデータで可視化。さらにデイリーで高速PDCAを回すことにより、広告効果の最大化を狙うというものです。結果として、TVCMの広告投資効果を倍以上にすることができ、データ活用で数億円の投資を実のあるものにした好例といえます。
こうした課題設定やデータ分析をもとにPDCAを回し、実施にアクションを起こしていくには、社内部署や協業代理店などとの調整、専門分野で知見を発揮してくれる外部リソースの活用が求められます。何より、限られた予算をデータ活用によって最適な形で配分し、いかに課題解決に導くかが重要です。そうしたオーケストレーションする力が、これからのマーケターには必要になるといえるでしょう。