模索しながらデジタルのセオリーをつかんだ
有園:小霜さんは博報堂のコピーライターご出身で、現在はクリエイティブディレクターとして多数の広告制作を手がける傍ら、企業の側に立ってマーケティングやクリエイティブのコンサルティング、教育支援などもされています。
デジタルの活用にも早くから取り組まれていますが、私がお仕事をご一緒させていただくようになった時点で独立されてだいぶ経っていたと思うので、いわば自力で“デジタルシフト”してこられたわけですよね?
小霜:言われてみれば、そうですね。元々はマス広告のクリエイターとして、テレビCMばかり担当していたので、デジタルを活用し始めてからは本当に手探りでした。
今でこそ、デジタルクリエイティブの一定のセオリーがつかめたように思いますが、最初はWebコミュニケーションというものをどう捉えればいいのかわからなかったし、失敗もたくさんしましたよ。
有園:小霜さんでも、そうなんですね。そんなここまでの知見を下にした書籍『急いでデジタルクリエイティブの本当の話をします。』(宣伝会議)が、先日発売になりました。この査読を私が担当させてもらったのですが、読んだらやっぱり直接いろいろとうかがいたくて。MarkeZine読者向けに、2つの大きなお題を立てました。
「マスとWebは別物なのか? それとも同じように考えられるのか?」そして「Webでモノは売れるのか?」ということです。
小霜:直球ですね。
Web動画ではなくWebCMと呼ぶことの意味
有園:直球です、90分2本勝負でお願いします(笑)。
書籍では、“デジタルクリエイティブで今いちばんホットである動画を中心的に取り上げ、最初に「『Web動画』ではなく『WebCM』と呼ぼう」と語られています。それが、マスとWebを本当に使いこなす第一歩になるんだろうと私は感じたんですが、まず、WebCMという呼称に込めた意図を教えていただけますか?
小霜:たとえば、新聞広告を「新聞静止画」とは言いませんよね。静止画なのは当たり前で、何らか人に動いてほしいという意図をもった表現だから「広告」と言うわけです。だったら、動画も広告として使うなら「動画」とは言わないんじゃないか、という疑問がまずありました。
Web動画というと、概念としてすごく幅が広いですよね。全世界で1億回以上再生されて爆発的に流行った、アメリカのおばちゃんがチューバッカのマスクをかぶって笑い続けるだけの動画がありましたが、あれもWeb動画には違いない。でも、見て終わりのただの動画ですよね。別に見た人に次のアクションを促す「広告」ではありません。
有園:確かに、そうですね。
小霜:もし、マスクを売るための広告として機能させるなら、最終的に買ってもらうまでのコミュニケーションの設計がまずあって、その中で動画にどういう役割を持たせたいのかを考える必要があります。それはただの動画とは違うので、テレビCMに対してWebのCMという意味で「WebCM」と呼ぶべきだと考えているんです。