CDOがマスを含めたメディア予算を持つ理由

長瀬:また、ランコム等のラグジュアリーブランドでは今年、雑誌広告を昨年よりむしろ増やしています。去年雑誌を削ったら、勢いを失った感覚があって。消費者調査でもタッチポイントとして雑誌広告の重要性が高く出ていたので、再度マスメディアに予算を戻しています。雑誌広告を絶対に止めようと思っているわけではなく、もし顧客が雑誌を情報源として活用し続けるなら、こちらも出稿を続けるという考えです。
ただ、ブランドごとに個別判断はしていますが、どのターゲットでも2020年には、ほぼモバイルファーストになるだろうと思いますね。
有園:あくまで、顧客の動きを把握した上での「100%デジタルシフト」なわけですね。ちなみに長瀬さんの統括する部はデジタル&メディア事業本部という名称ですが、マス広告の予算も含めたメディア予算を管理しているんですか?
長瀬:ええ。マス広告のレポートも僕のところに上がってきますし、テレビのメディアバイイング等においての最終確認や承認、パフォーマンスチェックもしています。
ただ、CMOは別にいるんです。CMOはあくまで市場の動きを踏まえて、会社がどこへ行くべきかを考える、コーポレートストラテジーに近い立ち位置です。僕の部ではもっとお客様を見るイメージですね。今やマス広告もそれだけに触れて店頭で買うということはなく、ほぼ確実にそこから検索したり、ECで購入したりもする。マス広告もデジタル施策と密接です。その意味でも、僕の部でマスもデジタルもとりまとめているんです。
化粧品は目的買い、“何となく”では買わない
有園:確かに、カスタマージャーニーがもうデジタルベースですからね。
長瀬:ええ。そもそも、化粧品は一般消費財でも飲料や生活雑貨と違って、かなり特殊な売れ方をしています。僕ら男性はピンとこないんですが(笑)、女性たちは口紅ひとつ買うにも色味から成分から徹底的に吟味しますし、商品へのリテラシー、そしてこだわりがすごく高い。飲料や生活雑貨などの消耗品は、割と感覚的に購入されることが多いと思うんですが、化粧品、特にラグジュアリーなブランドになるほど、そういうことはほぼないですね。
有園:なるほど。具体的に、どんなカスタマージャーニーなんでしょうか?
長瀬:たとえば、ふとメイク周りで何か気になった商品があったら、まずEコマースサイトや@cosmeといった口コミサイトなどにアクセスします。気になる以前の潜在ニーズの発掘にも、YouTubeにおけるHow to動画やインフルエンサーのプッシュなどのピンポイントな接触が効く。
ふと出てきたバナー広告をクリックして、流れで買ってしまうという行動は期待できないので、アドネットワークの類はほぼ使っていません。そこに投じるなら、確実なタッチポイントである@cosme内のタイアップページや動画のプラットフォーム等に投下したほうがいい。
有園:すると、今問題になっているビューアビリティやアドフラウドなどは、そもそも心配する必要がないんですね。
長瀬:そうですね。購買につながる顧客行動をはっきり理解しているので、消費者調査にかなり予算を割いて現状のカスタマージャーニーを精緻に把握した上で媒体や手法を選んでいくと、バナー広告などは使う候補に上がらないと考えているんです。特にモバイル環境下ではなおさらですね。