ABMの2つの側面
昨今、注目されている「Account Based Marketing(以下、ABM)は、まさに「顧客別にLTVを分析し、LTVを最大化するマーケティング」そのものです。しかし、それを実践するにはSFA/CRMツールの商談情報をはじめとした内部情報だけでは不十分で、業種、地域、企業規模等の企業属性情報を持つ外部サービスと連携するか、そのような企業リストを外部から購入し、内部情報と外部情報を統合して分析する必要があります。
ABMの実践には、データマネジメント(データ統合、データクレンジング、データアップデート)、データ分析という大きな課題があります。つまり、ABMは「Account Based Marketing」であると同時に「Analysis Based Marketing(定量分析をベースとしたマーケティング)」でもあるのです。
【Account Based Marketingの定義】
ターゲットアカウントを定義し
アカウント別に営業、マーケティング情報を集約・分析し
アカウント別に営業、マーケティング組織を再編成し
ターゲットアカウントのLTV最大化を目指すマーケティング
「SPEEDA」におけるABMの実践
さて、ここからは弊社が提供するサービス「SPEEDA(スピーダ)」のマーケティングにおけるABMの実践について解説していきます。SPEEDAはBtoB版のGoogleのような企業・業界情報のプラットフォームであり、サブスクリプション型のWebサービスです。私が入社する直前の2012年末の契約単位は「515」、これを4年後の2016年末には「1,572」と3倍以上に増やすことができました。現在の導入企業数は約600社です。
ユーザーニーズによるセグメンテーションの重要性
SPEEDAのマーケティング戦略を立てるにあたり、一番最初に取り組んだのは「導入企業のニーズ(使い方)によるセグメンテーション」です。ユーザー企業を3つに分類し、セグメントごとに現在の売上規模や今後の成長性、サービス継続率を分析します。これはLTVの分析につながり、セグメントごとに具体的なアカウント(企業)をターゲティングし、セグメントごとのABM戦略を策定します。
セグメンテーションにおいて重要な点は、従業員数等の企業規模や業種といった単純な分類ではなく、ユーザーニーズによってセグメントを切るという考え方です。企業規模や業種で切る際は、それによってユーザーニーズやユースケースが明確に分かれる場合のみであるべきです。
特に「自社の営業部隊の組織構成(大企業営業部隊、中小企業営業部隊等)に応じてセグメントを分ける」というのは最もやってはいけないやり方です。ユーザーニーズによるセグメント分けとターゲティングが先で、そのターゲットされた企業からどのようにリードを獲得し、契約を獲得するのか、という観点で営業、マーケティング組織は設計されるべきであり(Account Based Organization)、組織設計が先に来るのは本末転倒です。
SPEEDAのABMで実際に使ったセグメントは、「プロファーム」「マーケティング」「経営企画」の3つです(図表2)。

LTVベースのセグメント分析
セグメント分析においてもLTVの観点は欠かせません。ただ、LTVは非常に計算が難しく、また計算の前提の恣意性も高いという問題点があります。
そこで、LTVと関連し、計算しやすい概念の1つとして「継続率」を用います。継続率は解約率の逆の概念で、年間20%の解約率のサービスの継続率は80%になります。継続率が高ければ、当然LTVが高くなります。
分析に使う指標は3つです。(現在の年間の)売上規模、(売上)成長率、継続率です。成長率と継続率が一定だと仮定すれば、無限等比級数の和の公式から、下記が成立します。
LTV=現在の年間の売上規模/(1―成長率×継続率)
従って、簡易的ではありますが、これら3つの指標を用いれば、記事の前半で重要性を述べてきたLTVについて分析することができます。
まず、成長率と継続率について2x2のマトリックスを用いて考えてみましょう。

図表3のマトリックスに、売上規模を円の面積に比例させ、3つのセグメントをマッピングします。

図表4から、「マーケティング」は、現在の売上規模は小さく継続率も高くないものの、成長率は非常に高く、継続率さえ改善できれば大きな市場獲得が見込めることがわかります。つまり、改善開発のメインターゲット領域です。「経営企画」は、売上規模がある程度大きく、成長率、継続率ともに高いので、積極的に新規顧客を獲得していきます。また「プロファーム」は既に大きな売上があり継続性も高いですが、ほぼすべてのターゲット企業に導入済みで今後の新規企業獲得は限定的なので、アップセルにフォーカスしていきます。