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なぜセブン銀行は「5円から投資」のトラノコと組むのか フィンテック時代に仕掛ける「おつり革命」に迫る

デビットカードやnanacoを「トラノコ」に連動させる

――セブン銀行のデビット付キャッシュカードやnanacoで支払いをすると、おつり相当額がトラノコに貯まるという仕組みは、いつ頃立ち上げる予定でしょうか。

松橋:もう実現しています。お客様が「トラノコ」アプリをダウンロードして、セブン銀行のデビットカードかnanacoを連携させて、その差額を集計できるよう登録してもらえれば、できます。

 ここからはまさに「トラノコ」のサービスなのですが、セブン銀行のデビットカードかnanacoを「トラノコ」に連携させるには、二つのやり方があります。

 そもそも「トラノコ」はzaimさんかMoneyForwardさんかMoneytreeさんとID連携させることが可能で、お客様がすでにzaimさんかMoneyForwardさんかMoneytreeさんをお使いの場合、そちらの管理画面でセブン銀行のデビットカードかnanacoを登録するのが一つのやり方です。

 もう一つは、「トラノコ」の設定画面で、セブン銀行のデビットカードかnanacoを登録するやり方です。「トラノコ」が家計簿アプリのzaimさんのスクレイピングエンジンを使って、セブン銀行のデビットカードかnanacoでの決済情報を取り込む仕組みです。

 最終的にはお買い物したものが自動的に投資に回っているというのが理想ですが、レジやオペレーションを変える必要があり、いまのところハードルが高い。

 セブン銀行のATMに現金を入れて「トラノコ」への投資に回せるようにしたいですね。「飲み会のために用意していた3,000円が手元にあるけど、ドタキャンになっちゃった。このまま持っていると使っちゃうから投資しよう」という需要に応えていけるのでは、と期待しています。セブン銀行のATMは千円単位であれば預け入れできるので、技術的には可能です。

 ムダ遣いしてしまわないように、家に帰る途中にセブンイレブンに寄って、セブン銀行のATMで預け入れて、「トラノコ」にする。これはお客様への新しい価値提案ではないかと感じています。

電子決済時代にセブン銀行はどう向き合うのか

――少し違う角度からお話をうかがいたいと思います。日本はアジアの他の国々と比べたときに電子決済の普及がゆるやかで「現金信仰」が根強いと言われています。今後セブン銀行さんとしては、現金と電子決済のどちらに比重を置いていくおつもりですか。

松橋:現金がいいのか、電子決済がいいのかは最終的にはお客様が選んでいくと思うので、いずれかに比重を置くということは考えていません。グループではクレジットカードも電子マネーもデビットカードもやっていて、次はスマホでの決済も考えています。電子化は電子化で取り組みながら、現金は現金で利便性を追求していきたいですね。

なぜATMは「提供者目線」のプロダクトなのか

――「現金の利便性」というのは、電子決済ブーム一色の中、ユニークな着眼点で興味がそそられますね。

 「現金文化」とも密接に関わる、ATMについても聞いていきましょう。そもそも、セブン銀行さんが2001年に始めた「コンビニにATMを置く」、そのために銀行を設立するということが業界の常識を打ち破るイノベーションだったわけですが、それから17年が経過した今、ATMをどのような存在にしていこうとお考えでしょうか。

松橋:実は今、次世代ATMを開発しています。これはまったく新しいものをめざしています。ATMという名前を変えるぐらいの変化をもたらしたいんです。ATMの原義は「Automatic Teller Machine」。bank teller、つまり銀行の出納係を自動化するという意味です。ATMが誕生してから50年経ちますが、たしかに当初は窓口の代わりに機械を設置するという意味付けだったことは理解できます。

 しかし、これからのATMを考えたときは「欲しいときに使いやすい、自分の財布」みたいな顧客中心発想の名前、たとえばキャッシュオンデマンドマシーンなどをコンセプトに機能・サービスを考えるべきです。もちろん名前だけでなく、アプローチはこのように顧客中心の未来の金融サービスを確実にとらえていけるように考えています。具体的には、「トラノコ」のあのトラのマークが画面が出てくるなど、従来と違うインターフェースや、使いやすさを追求したいですね。

提供側の論理ではなく、お客様の利便性にこだわる

――今までお話を聞いていて、「ATM」は売り手側、提供側の論理だからまったく新しい存在になるべきだ、とか、事業ポートフォリオの多角化ではなくお客様の利便性をいかに高めて行くかというところから新規施策のアイデアを生み出されている、といった発想の強さをひしひしと感じます。

 お客様のリアリティから考えるということを徹底されているセブン銀行ですが、テクノロジーを活用して金融サービスを刷新しようとするとき、どのようなスタンスを大切にされているのでしょうか。

松橋:「テクノロジーがあるから、なんとかしてビジネスにしよう」という発想はしません。お客様の感じている課題と向き合う中で、たまたまAIを使うとか、たまたまビッグデータを使うといった意識でいます。

 セブン銀行のATMは毎日、稼働データを蓄積しています。どの場面でどのお客様がどのぐらい止まるのかみたいなデータを、どんどん貯めていく。それをずっと改善に使い続けているのですが、これって今でいうビッグデータ活用ですよね。「ビッグデータを使って変えよう」と考えたのではなく、「お客様が使いやすくするためにデータをとろう」という発想でいたら、自然と「ビッグデータ活用」をしていた。

 「やりたいことが先にあって、あとから技術を引っ張ってきている」感じですね。テクノロジーありきではなく、課題が先なんです。さらにいえば、「お客様視点」を貫くというのはセブン-イレブングループのDNAみたいなものです。

セブン銀行ATMの背景にあるデザイン思考

――セブン銀行のATMは傘置きがあったり、コーヒーを置くホルダーがあったり、セブン&アイグループならではのATMだと感じます。デザイン思考にも通じるお話だと思いますが、お客様の課題を中心に考えていく文化は、セブン銀行さんの中にどのようにして根付いてきたのでしょうか。

松橋:セブン-イレブンとゼロからATMを一緒に作るなかで培ったものは大きいかもしれません。銀行だけで作ったら、多分こうはならなかったと思います。当初、セブン-イレブン・銀行・テクノロジーSIerの3社が集まったものの、「言語が合わない」状態でした。それが、お客様の視点が大事だという理念が伝わることで、だんだんチームの結束が高まって、言葉も気持ちも通じるようになってきたんです。

 そうなると、システム会社とのお付き合いの仕方がまったく変わってきます。「私は発注する人、あなたはシステム作る人」という意識のもとに「指示する側と、作る側」といった関係性におさまるのではなく、お互いを「パートナー」として一緒にATMを作っていくんです。 

 だから外部の協力会社でセブン銀行のATMを作ってくれる人たちも、「自分たちのATM」と言ってくれます。「セブン銀行さんのATM」じゃなくて。

 セブン銀行としても、カタログの中からATMを選んで買うとか、協力会社に対して「おたくのATMはここが悪いよ」と「指示する側」のスタンスにはならない。みんな一緒になって、「セブン銀行の、自分たちのATMをどう作っていこうか」という関係性になれるんです。

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セブン銀行が「トラノコ」から受け取ったもの

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この記事の著者

江川 守彦(編集部)(エガワ モリヒコ)

東京大学文学部を卒業後、総合広告代理店でマスメディアの媒体営業業務を経験し、出版社に転じて人文系の書籍編集に従事したのち、MarkeZine編集部に参画。2018年よりオーガナイザーとしてMarkeZine Dayの企画にも携わる。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2017/11/16 08:00 https://markezine.jp/article/detail/27217

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