2020年東京オリンピックのキャンペーンにも活かしたい
――物理的に存在するモノを保管するだけでなく、コカ・コーラ社にまつわる「コト」、つまり歴史的事実も資料化しているとうかがいました。日本市場について、印象深いエピソードはありますか。
ライアン:日本コカ・コーラ株式会社は、今年で創立60周年を迎えます。「コカ・コーラ」は大正時代から日本で売られていましたが、輸入品であり都会の一部で飲まれる特別な飲み物でした。
戦後、髙梨仁三郎氏によって日本人による「コカ・コーラ」の製造・販売がスタートします。一番初めに「コカ・コーラ」が販売されたのは、東京アメリカンクラブでした。やがて、日本の一般的な家庭でも飲まれるようになります。
そして、やはり1964年に開催された東京オリンピックのストーリーは特筆すべきものです。コカ・コーラ社は1928年のアムステルダムオリンピックから、オリンピックのワールドワイドパートナーを務めています。東京オリンピックでも「オリンピックキャンペーン」としてプロモーションを行い、聖火リレーのサポートをしました。
今回の来日に合わせて、アーカイブズから1964年の東京オリンピックの素晴らしい写真も持ってきましたし、札幌・長野の聖火リレーで使ったトーチも日本に送っています。2020年の東京オリンピックのキャンペーンで、参考にしてもらいたいと考えています。
――とてもワクワクするお話です。その他に、日本のコカ・コーラ社に関するアーカイブもお持ちだと聞いておりますが、どのような印象をお持ちでしょうか。
ライアン:日本は、独自のブランドが多いですね。たとえば、缶コーヒーの「ジョージア」も日本生まれ。1975年に誕生しています。コカ・コーラ社の世界において、日本を表現するキーワードは「イノベーション」です。コカ・コーラ社は世界中に展開していますが、その中でも日本は際立った成長市場だと捉えています。
企業やブランドの歴史を資産に変え、価値を生み出していく
――最後に、アメリカのビジネス・アーカイブズ業界の展望、そして、ライアンさんがアーキビストとしてチャレンジしたいことを教えてください。
ライアン:アメリカでは企業の統合が進んでいますので、アーカイブズが一緒になることもあるかもしれません。しかし他社のアーキビストは、競合として戦う相手ではありません。
アーキビスト同士の関係は、同僚であり友人のようなものなのです。私たちは、それぞれの企業の歴史・ブランドを守っていくため、お互いに力を尽くしていくでしょう。
アーキビストの仕事は、コレクションをただの芸術品や遺産として保管することではありません。それらに重要な役割を与え、企業にとっての価値を見出し、内外に正しい情報を提供していくことが重要です。企業の成長に合わせて、アーカイブズにも新しい考え方が採用されるでしょう。コカ・コーラ社にとって何がベストかを模索する、私のチャレンジは続きます。

また、「コカ・コーラ」以外の所有するブランドについても取り組みを強化したいです。たとえば「ジョージア」はRTD(Ready to drink、容器入り飲料)コーヒー飲料として世界一の売り上げがありますが、社内でもそのことを知らない人は多い。アーカイブして、他のチームにも共有したいと思っています。
まだまだできることはたくさんあります。「コカ・コーラ」はロゴがTシャツのデザインとして使ってもらえるくらい、お客様に愛されているブランドです。深いエンゲージメントの礎となっている歴史の数々と向き合い、新たな可能性を引き出せるのはアーキビスト冥利に尽きること。私にとって、コカ・コーラ社のアーキビストは世界一幸せな仕事です。
