デジタルとの出会いを、どうやって「実行」に結実させたか
平野:変化の早いデジタルマーケティングの世界において、組織としてその変化に対応し、価値を提供し続けることは容易ではありません。
本日ご登壇いただいたお三方は、経営者として自分の会社でデジタルに取り組み、成果をあげてきました。そこにはどういう道のりがあったのか、事例としてお話しいただこうと思います。
では早速ですが、まずは皆さん自己紹介をお願いします。
前田:アンダスの前田です。僕自身は1990年から10年ほど、情報通信販売大手でテレマーケティングに従事したのちWeb制作会社に入り、サイトの新規制作やリニューアルの提案などをしていました。
その会社では制作だけ請け負っていたのですが、納品後にお客さんから「アクセスがない」「モノが売れない」と相談されることが増えてきました。そこで独自にネットの広告メディアに問い合わせして契約結んでメニューを作ったりして、集客のサービスをやり始めました。それが、SEOとかリスティング広告が出始めた2003年頃です。
お客さんも喜んでくれて手ごたえを感じていたのですが、その制作会社の代表は制作しかしないというスタンス。でも僕は本当にクライアントが求める成果を出せる会社をやりたいと思いました。
そこで、デザイナー・エンジニア、そして戦略設計するプランナーの3者がひとつにいる会社を作りたいと思って立ち上げたのが、今代表を務めているアンダスです。Webマーケティングで真の成果を出せるワンストップソリューションを社是として掲げています。
平野:ありがとうございます。続いて、本松さんお願いできますか。
本松:アサツー ディ・ケイ(以下、ADK)の子会社となる、アブソルートワンを去年9月に設立し、同代表取締役を務めております本松といいます。
僕の当初のキャリアは、現在と全く関係のないものでした。最初は銀行員で、務めて1年ほど経った時点で、もっと自分でなければできないような仕事を担える人材になりたいという想いでアクセンチュアへ転職し、生産性向上を軸としたコンサルティングに従事していました。
それから4年ほど経った後に、大学の先輩だった加藤公一レオさん(現 売れるネット広告社社長)に誘われ、ADKの九州支社に参画したのが11年前のことです。その当時はまったく広告業界に興味がなかったのですが、入社してすぐに触れた、通販ビジネスやデジタル広告の世界があまりにもおもしろくて、ハマってしまいました。
通販ビジネスのマーケティング支援では、広告主からお金を預かって売上としてお返しするのが基本で、投資対効果が厳しく求められます。当時広告代理店で、いわゆるダイレクトマーケティングを実践している人たちってあまり聞かなかったので、デジタル化は世の中の流れとして加速し続けるし、この「投資対効果」をとことん追求したらきっと稼げる人になるなって思いました(笑)。
そして狙い通り時代はデジタルへと進んでいき、同時に効果の可視化も進むことで、広告に対する「投資対効果に対する要求水準」も上がってきました。そこで考えをさらに進化させ、クライアントがダイレクト系か非ダイレクト系かを問わず、こうした投資対効果を意識したマーケティング活動を支援することが求められるようになること、そうしたことが実践できる組織が業界全体で求められるようになること、などを社の経営層に訴えつづけることで、マーケティング・コンサルティングを提供するアブソルートワンを設立するに至りました。
平野:ありがとうございます。最後に杉山さんお願いします。
杉山:アイアンドシーパートナーズの杉山です。大学生のときに、仙台で最大手のプロモーションプランニング会社でバイトをしたのが広告業界との出会いでした。大学卒業後に入社したのは地元の小さな広告会社。その後、営業部長になったのち、新たに媒体部・クリエイティブ部を作ってもらい、それら3つの部署を統括する本部長となりました。
勉強好きで今も色々なイベントや講座などを受けているのですが、ある時自腹を切って東京で受けたネット広告営業の講座でショックを受けたのがデジタルマーケティングに踏み出すきっかけでした。
ネット専業の色々な代理店の話や、ネット広告ではどんな効果測定をやっているのかを聞くにつれ、「こんな会社が東北に進出してきたらやられてしまう」と危機感を覚えたのです。これは早急に手を打たねばと2007年にWebマーケティングチームを立ち上げました。
ネット広告が売れるまでには2、3年はかかったのですが、だんだん東北の中でネット広告に対する関心が広がり、需要も高まっていきました。ですが、広告会社の中のいち事業部として推進するだけでは限界があるので、Webマーケティング専門会社として名乗りをあげようと2009年に設立したのがアイアンドシーパートナーズです。最終的には元いた広告会社から株式を買い取り、独立経営となりました。
事業のメインはデジタル広告の運用ですが、自分がずっと営業畑で営業が大好きだったこともあり、色々な代理店さんと組み、営業に同行して一緒に提案からクロージングまで行い、運用はうちが担当させていただくというスタイルを確立してきました。
平野:ありがとうございます。3人とも完全に個人の意志からデジタル広告の世界に入っていったのがおもしろいですよね。僕の自己紹介も簡単にさせていただきますと、もともとは人材系のコンサルティング会社にいまして、そこから2005年にオプトに移り、100人以上の部下のマネジメント、リスティング広告などを扱うコンサルタントをしていました。
そのあとは沖縄でリスティング広告の運用を行うサーチライフという子会社を起案、設立しまして、取締役になりました。沖縄以外の地方も回り、地方の広告代理店さんの広告運用支援をやっていました。5年前にTATEITOを立ち上げ、「マーケティング×教育事業」に取り組んでいます。
デジタルマーケティングで食べていくためにどんな戦略を立てたか
平野:それでは、各社がこれまでどんな戦略でここまで成長してきたのか、お聞きできればと思います。
前田:九州市場だけでは厳しいと考えていたので、都市部のクライアントを取っていくことを創業当初から考えていました。ただ人脈もネットワークもなかった。
そこで、「アドテック」や「ブランドサミット」といった業界の大きなイベントに参加して、参加者全員と名刺交換し、交換した人にはその日のうちにFacebookで友達リクエストをメッセージ付きで送ることをしました。そうしたイベントに毎年参加することで、人脈がまったくなかったところから現在は3500人ほどの友達ができ、業界の主要メンバーとはほとんどつながることができています。
つながりができれば事業の話に発展しますが、他社との差別化のためにもとがっていないとダメですよね。そこでECに強みがあることをアピールしていたら、業界のネットワークで仕事を紹介してもらえるようになって仕事の幅が広がっていきました。
本松:僕らのチームでは、まずはクライアントのマーケティングとセールスのデータを知ることを心がけました。それらを共有していただくことで、自分たちの仕事が「広告を売ること」ではなく「利益を提供すること」に変わる。
自分たちの仕事を広告という範囲に限定してしまうと、多くのクライアントに「CMやブラパネの枠を売りつけることで利益を得ている人たち」と思われてしまいます。そうではなく「広告だけに限らずクライアントに利益を提供することこそが、次の発注を生む」というスタンスで臨む。戦略というか、こうしたポリシーを大事にし続けることで、これまで組織としても成長することができたのだと思います。
杉山:アイアンドシーパートナーズを設立したとき、営業を育てて自社で営業をするのではなく、コンサルタントを育てたいと考えていました。広告代理店さんから声がかかったら、アサインして派遣できるようにしたい、と。
営業は広告代理店さんにお任せする代わりに、私たちはコンサルとしてデジタル広告の知識を蓄え、デジタル広告における多彩なソリューションをワンストップで提供できれば需要があると睨んだのです。だから、営業ではなく、デジタルの知見を持ったスタッフを育てることに投資する。それが売上につながっていて、継続しています。
平野:最初から自分たちの提供する価値を明確に絞られているのが印象的です。その結果が結びついていて、全国の代理店から多くの相談を受けていますよね。
杉山:私自身が広告代理店という業態が大好きなんですよね。レガシーだとか言われますけど、全然そんなことはない。ブランディング・分析・アイデアをもとにした実行力を備えているからこそ広告代理店には不朽の価値があります。
広告代理店さんが広告主と向き合うなかでデジタル領域のソリューションが必要になれば当社がお手伝いさせていただくとともに、協業するなかで総合代理店さんならではの知見を学ばせていただくことでともに成長していきたいと考えています。
デジタルマーケティングを担う人材育成のコツ
平野:デジタルマーケティングで事業を成り立たせるための「戦略」について聞いてきましたが、いくら戦略が優れていても人が育たなくては事業は上手くいかないですよね。どうやって人を集め育てて、組織を作り上げてきたのかをお話しいただけますか。
前田:ご指摘の通り、最終的に大事なのは、やはり「人」の成長です。今僕は月2回は東京に行き、その際に誰かしらと会って話を聞いています。地方にいてもネットで色々な情報が手に入るようになりましたが、ネットの情報だけではリアリティが伴った理解が得られないからです。
地方でデジタルマーケティングにチャレンジしていくなら、イベントにどんどん出ていき、そこで作った人脈から今のトレンドや本質的な情報を肌感覚で得て、知見を蓄えていくべきだと思います。
本松:組織ということで、僕が部下に伝えていることが2点あります。1点目は、「堂々とした童貞であれ」ということ。デジタルの領域って新しいことだらけだし、広告とかメディアの枠組みに収まりきらないものばかりをやっていくので、初めて尽くしになります。こうした事柄に対して、「やったことがないから私の(我々の)仕事ではない」という考えでは、提供できる付加価値は増えませんし、自らの成長機会も失ってしまいます。
なので、「例え初めて臨む事であっても、緻密に調べて誠意を持って考えたものを堂々とクライアントに提案しなさい、初めてであるかどうかは問題ではない」と伝えています。
2点目は、「一度始めたら逃げずに責任をとる」ということです。逃げ場がなくなれば、自分で調べ尽くして、考え尽くして、アウトプットしていくしかない。そうなるといつの間にか、信頼も得られるようになりますし、立派なプレイヤーに成長するんですよね。
平野:マーケティング教育の場で見ていると、広告主企業の方々も次々にわからないことに直面します。そこで彼らが求めているのは、一緒に考えてくれる人です。もっと言うと、半歩先を進んでくれるパートナーです。まさしくそういう人たちを育てているんですね。
杉山:私も、組織の前にまず人だと思っています。広告会社の社員はお客様からいただく仕事で成長していきます。経営者は座学の場を提供すること以上に、良い仕事をいただける企業との関係を構築し、社員に仕事にやりがいを持ってもらい、自ら学びたいという動機を引き出すことに力を注ぐべきです。そうして個々人のスキルを高まることで新しい仕事が増え、売上も上がってくるのではないでしょうか。