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トリプルメディアを一歩進めた、“PESOオーダー”という新発想

カンヌライオンズ受賞作を、「PESOオーダー」分析してみる


“Fearless Girl”を「PESOオーダー」で分析してみよう

 Fearless Girlは、大きな流れの順番(オーダー)で言うと、OSEP型と呼ぶことができると思います。ただ、この広告コミュニケーションではPaid(広告)が使われていないようなので、OSE(P)型としておきましょう。

 そしてまた、事例ビデオを見る限り、実際にはOwnedである少女像設置直後にニュース番組等で取り上げられて(そしてそのためのPR活動は行われていると考えられ)ます。そのニュースを見て、少女像のところに出かけて行き一緒に写真を撮ってシェアした人も少なからずいるでしょう。そのシェアされる現象をさらに番組・記事等が取り上げ、その番組や記事を見たり読んだりしてシェアする人が大量に現れる。

 そうした循環を考えて、詳しく書けば、O(E)S E(S)(E)・・・型とも言えそうです。しかし、この広告コミュニケーションに関しては、そのプランニングの大筋はO(少女像の設置)→S(自撮りのSNSへのアップ)→E(自撮り現象の番組や記事での紹介)にあったと考え、OSE(P)型としました。最後に(P)としたのは、考え方としては、ダメ押し的にPaidを使う手もないことはなかったからです。

 Fearless Girlにおけるマーケティング・メッセージの乗り物としてのキーは、S(Shared)にあったと考えられます。Owned(少女像)もEarned(番組・記事での露出)も、すべてそのために仕掛けられました。その仕掛けが奏功し、大きな成果を上げることができたのです。

 さて、ここで前回の記事で触れた「広告と広報の融合」についても、もう一度触れておきましょう。この事例がOSE(P)型で最後のPaid(広告)を使わなかったとしたら、それはもう「“広告”と広報の融合」ではないのではないか、と一瞬思いませんでしたか?

 しかし、この事例を手がけているのは広告代理店であるマッキャンNYです。今や広告代理店は、案件によっては“Paidという意味での広告”を行わないことは珍しくありません。そうした意味での広告を扱わなくても、フィーや企画費として充分な報酬が得られるのであれば、ビジネスとしては問題ないわけです。

 一方でこの事例は、ひじょうに“広告的な”発想で作られています。そういう意味では、あえて言えば「広告発想と広報発想の融合」とか「広告知と広報知の融合」と呼べそうな事例だと思います。

OSEP型は、今日の統合型“広告コミュニケーション”のスタンダードになるか

 このOSEP型は、ここ数年のカンヌライオンズ話題作に多数見られ、今日の統合型広告コミュニケーションの基本となる形ということもできそうです。

 たとえば、2015年の話題作“Like a Girl”。アメリカの生理用品Alwaysが、生理時期を境に当の女性達でさえ“Like a Girl”という言い方や“Girl”という存在に対して侮蔑的態度に陥ることを、ドキュメント仕立てのWeb動画で表現しました(Owned)。

 このWeb動画は多数Shareされ6,000万回も視聴され(Shared)、そのことが番組や記事でも取り上げられました(Earned)。また翌年2月のスーパーボウル(アメリカンフットボールの決勝戦・テレビCMの祭典としても名高く30秒枠が4億円とも言われている)ではテレビCMとしてもオンエアされ(Paid)ています。つまりO→S→E→P型ですね。この場合のPaidは、既に評判となっている広告コミュニケーションをさらに拡げるためのブースター的な使われ方だと考えられます。

 また2013年の話題作の“Dumb Ways to Die(ばかげた死に方)”も、同じOSEP型です。メルボルンの鉄道会社が線路転落などによる事故の防止を訴えたこの広告キャンペーンは、始まりとしてはWeb動画でした(Owned)。自分で頭に火を付けたり狂暴な熊を棒で突いたり宇宙で宇宙服を脱いだりする「ばかげた死に方」を、ユーモラスな歌とチャーミングなアニメーションで描き、あっと言う間に何千万回も見られSNSで話題となりました(Shared)。そしてそのことが番組や記事で取り上げられると(Earned)、さらに屋外看板を活用する(Paid)などキャンペーン全体の深化にも努めました。

 事例ビデオを詳しく見ると、Web上でホームで危ないことをしないと誓わせたり、絵本やカラオケを作るなど、OSE辺りを繰り返しているのも気になり、OSEOSEPSEOSEといった形が考えられますが、大きな流れで言うと、典型的なOSEP型でしょう。

 このOSEP型のOwnedはここ数年、Web動画が主流でした。その意味でFearless Girlは、「少女像の設置」という形でPESOオーダーにおけるOwnedの新しい可能性を示したということもできると思います。

次のページ
Paidが重要な役割を果たす「PEOS型」とは?

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この記事の著者

佐藤 達郎(サトウ タツロウ)

多摩美術大学教授(広告論/マーケティング論/メディア論)。2004年カンヌ国際広告祭フィルム部門日本代表審査員。浦和高校→一橋大学→ADK→(青学MBA)→博報堂DYMP→2011年4月 より現職。
受賞歴は、カンヌ国際広告祭、アドフェスト、東京インタラクティブアドアワード、ACC賞など。審査員としても、多数参加。個人事務所コミュニケーション・ラボにて、執筆・講演・研修・企画・コンサルなども。また、小田急エージェンシーの外部アドバイザー、古河電池の社外取...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2018/01/10 15:05 https://markezine.jp/article/detail/27608

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