リカバリープランニングにも周囲が協力

有園:村上さんも、OKRってあったんですか? 売上?
村上:ありましたよ、でも売上じゃなくて、トラフィック量でした。売上はエリックにも言われなかったなぁ(※2人の創業者の要請でCEOに就任したエリック・シュミット)。
それから、OKRをベースに360°評価していましたね。直属の上長、部下、部門の同役、それから業務に関係する他部門の同役など。そういう方々も、OKRのプランニングや、それから達成しなかった場合のリカバリープランにも参加することになっている。だから、自分で目標を立てて守るといっても、一人荒野を歩くみたいな感じじゃなかった。
有園:そうでしたね。一方で、今おっしゃった達成しなかった場合というのは、そこそこ厳しかった。OKRを5段階評価して、2.9以下を3期連続で取ったら解雇してもいいことになっていたと思います。入社時も、それをわかって入ってねと。
村上:そうそう。もちろん、2期連続した時点で上長や人事部が入って、ポストがミスマッチなんじゃないか、社内で別のポストがないかとかの相談もします。日本は実際にはそう簡単に解雇はできませんが、そうしたケアは日米とも手厚かったですね。
有園:それにしても、部下が多いと評価する人の数も相当で、僕も25人分とか書いていました。それがまた、英語で書かないといけないっていうのが…。
村上:僕は英語は「英借文」でうまくやってたよ、大体他国の評価シートが見られるから、似たようなポジションの人のコメントを参考にしてた(笑)。
有園:えーっ!!
若いスタッフを見守ることが役割

村上:僕の書いた英語勉強本でも書いてるけど、英作文じゃなくて「英借文」ですよ。だって、日本語はそこそこ書けるのに英語だと「~~なんちゃって、候」みたいな言い回しになっているかもしれないのに、そうかどうかもわからないじゃない。だから英作文は諦めて「英借文」。
有園:なんという………。ところでエリックさんの名前が挙がりましたが、彼が村上さんを面接したんですよね。2003年の春に米副社長と日本法人代表に就任されましたから、その前年。確か、部屋で会う前にトイレで会ったっていう。
村上:そうそう、エリックが部屋にいなくてね、メンズルームに寄ったらそこで「おまえ、ノリオか?」って。
有園:(笑)。それで、いわれた役割があったんですよね。
村上:アダルト・スーパービジョンね。子供たちを大人の目線で見守るみたいな。エリックも当時まだ40代半ば、ラリーとサーゲイはちょうど30歳くらいでしたからね、彼らが率いるエンジニア集団は更に若かった。
その指導なんかはできませんよ、ただエリックは「我々がやってきたようなコンピューターインダストリーのミスを彼らがしないように、見守ってくれ」というので、引き受けました。
僕の前に100人くらい面接したらしいんだけど、なぜ僕だったかと聞いたら「あんたはAIの経験があるから」と。でも僕がやっていたのは1980年代のもので今のは全然わからない、というと「大丈夫、俺もわからん。今まで面接した人たちに、ノリオはわかったフリができると聞いた」って。
有園:それ、大事ですね(笑)。
村上:さすがに、エンジニアたちに「AIをまったくわからんオジサンが来た」と思われたらいかんということですね。
後編では、初期のGoogleメンバーの知られざる裏話や、YouTube買収時の日米を股に掛けた緊迫の舞台裏が明かされます!12日 14時公開ですのでお見逃しなく!!