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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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MarkeZine Day 2025 Retail

世界のマーケティング学者から学ぶ「勝てる」マーケティング思考

シェアリングエコノミーはコラボレーション消費である

イノベーター的顧客はホテルにはない価値を求めている

 まずは米国ワシントン州立大学のツシアディア(Tussyadiah)先生の2016年の論文を紹介します。この先生の研究は、シェアリング・エコノミーを利用する顧客の満足度はどのような要因から形成されているのかを、アメリカ人のAirbnb利用者を対象に実証研究しています。

 満足度と将来のサービス利用意向に影響を与える構成要因として、ツシアディア先生は、以下の6つを挙げています。

  1. 「純粋な楽しみ」
  2. 「経済的価値」(=お金が節約できる、お得に泊まれる)
  3. 「宿泊施設そのものの価値」(=綺麗だとか、設備が整っているか)
  4. 「社会的価値」(=ホテルでは味わえない、現地の人のふれあいやコミュニケーション)
  5. 「サスティナブル性」(=エコな旅行となり、現地の人の住まいに間借りすることで、余計な環境負荷をかけない)
  6. 「地理的要因」(=交通の便が良い、観光地に近い)

 研究の結果ですが、Airbnb利用者の満足度に大きな影響を及ぼした要素は、「楽しみ」、「経済的価値」、「宿泊施設そのものの価値」なのだそうです。

 やはり、Airbnbを使うお客様である以上、従来のホテルが提供しているような「地理的要因」とか、「サスティナブル性」の影響は弱かったのです。後者については、ホテルでよく見かける「使わないタオルはそのままでお願いします」的メッセージには共感しないお客様像が浮かび上がってきますね。

 一方で、現地の人とのふれあいやコミュニケーションといった「社会的価値」には、宿泊方法によって違いがあるようなのです。

 宿泊方法は2つに分けることができ、「自宅の1室を借りたお客様」と、「無人の家、部屋そのものを借りたお客様」となります。前者の「自宅の1室を借りたお客様」は、住人とのコミュニケーションが必然的に生まれるようで、そのコミュニケーションにメリット・満足を感じます。他方で、後者の「無人の家、部屋そのものを借りたお客様」はホテルに宿泊しているのと同じような感覚になるのか「社会的価値」を満足の要因として捉えないようです。

 このような差は日本における民泊に関わる社会問題としてよく取りざたされる「民泊を利用する外国人客のマナーの問題」を考察する上でも示唆があると思います。

 少し古い記事ですが、2015年に日経ビジネスの記事に中国人による日本の不動産購入の活用方法としてAirbnbを経由した民泊利用が取り上げられていました。

 お金もうけを目的として取得され、外国人観光客に貸し出されている部屋には現地の人のふれあいはなく、自由に出入りできる単なる部屋、無人ホテルと化します。全く人とのふれあいのない民泊活用の場合、貸主・借り主にとって「経済的価値」はあるが、本来利用者が求めている民泊の価値の一つである「社会的価値」が提供されていないのかもしれません。

 日本においても、今後外国人観光客に対して自宅を提供する人が増えるでしょう。民泊を安心、安全に利用してもらうにはやはり、「経済的価値」ばかりではなく、「社会的価値」のようなポイントをアピールする、そしてその価値をちゃんと提供することが大切になりそうです。

 また、ホテル業界も社会的価値の提供に注力することで、民泊に十分対抗できる可能性もあるでしょう。お互いに文化や交流を提供できるサービスにしていかなくては、本当の意味で民泊が広がる価値はないのかもしれませんし、その点をアピールすることが、健全に民泊を経営するコツになるでしょう。

  さらにこの原稿を書いている瞬間に以下のような記事がアップされていました。

 Airbnbが1月12日、京都市の保健福祉局へ『京都市の「民泊」の適正な運営等に係る新たなルール(案)に関する意見』を提出しました。意見書では、Airbnbを通じて京都を訪問する外国人旅行者に快適な宿泊施設を提供するべく住宅宿泊事業法(以下、民泊新法)を含めて法整備の必要性がアピールされています。

 そのうえでAirbnbは適切な民泊運営のため「家主居住型と家主不在型とを区別したルール設定」「個人情報やプライバシー保護の徹底」「わかりやすくシンプルな法令・条例の説明資料の作成」の3点を求めているそうです。

 ここで注目すべきはやはり、「家主居住型と家主不在型とを区別したルール設定」ですね。彼らも「家主居住型」と「家主不在型」とを区別し、それぞれの特徴を考慮したうえで、民泊の利用ルール制定を提案しているのです。

 Airbnb自ら、近隣住民に悪い印象を与えるゴミ処理問題等への対応はもちろん、宿泊者の真の楽しみをしっかりと担保し、自社サービスへのネガティブな印象を払拭すべく、しっかりと民泊への理解を求めるPR活動を行おうとしています。生活空間に旅行宿泊者が入り込むことへの様々な配慮をこのような地道なPR活動、企業活動を通じて行うことも、シェアリング・エコノミーのような新しい消費行動には必要なのですね。

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シェアリングエコノミーは「共創消費」

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この記事の著者

奥谷 孝司(オクタニ タカシ)

オイシックス・ラ・大地株式会社 専門役員COCO(Chief Omni-Channel Officer)
株式会社顧客時間 共同CEO 取締役
株式会社イー・ロジット 社外取締役
株式会社Engagement Commerce Lab. 代表取締役

1997年良品計画入社。3年の店舗経験の後、取引先の商社に出向しドイツ駐在。家具、雑貨関連の商品開発や貿易業務に従事。帰国後、海外のプロダクトデザイナーとのコラボレーションを手掛ける「Worl...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2018/02/14 07:00 https://markezine.jp/article/detail/27826

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