『構造と力』との出会い
「リゾームマーケティング」あるいは「リゾーム」とは、秋山氏の「AISASモデル」を改変しなければならないと私が思った理由の一つだ。
結論から先に言えば、1990年頃を境に、「大衆化社会」は徐々に「リゾーム化社会」に変容してきた、と私は考えている。それを秋山氏に伝えようと緊張しながら説明した。ちなみに、他人に対して「リゾームマーケティング」や「リゾーム化社会」を説明したのは、これが初めてだ。
「リゾーム」という単語に私が出会ったのは、1990年頃に読んだ『構造と力』(浅田彰[著]勁草書房)という本だった。
それを契機に、「リゾーム」というコンセプトに興味を持ち、フランスの思想家ドゥルーズ=ガタリ著『千のプラトー 資本主義と分裂症』(ジル・ドゥルーズ、フェリックス・ガタリ[著]宇野 邦一 [翻訳]他 河出書房新社)『リゾーム…序』(ジル・ドゥルーズ、フェリックス・ガタリ[著]豊崎 光一[翻訳]朝日出版社)などの難解な本を読み漁った。まぁ、正直、難しすぎてよくわからなかったけど、、、。
しかし、その影響で私は「ネットはリゾームという思想を具現化したものだ」と考えるようになった。
学生時代には、毎日新聞やNHKなどでアルバイトし、マスコミに興味を持つ学生だった。しかし、米国の西海岸に留学し、90年代のネット勃興やドットコムブームをナマでみた私は、マスコミへの興味は消え、そのまま、サンフランシスコのネット企業に就職した。
リゾーム化が21世紀の特徴の一つになる
『構造と力』との出会いから四半世紀以上、なぜ今、「リゾーム」について語るのか? それは、今まさに、社会がリゾーム化へとアクセルを踏み始めたからだ。
IoE(Internet of Everything)という時代が到来し、PCやスマホの世界だけに閉じていたリゾーム空間が、私たちの社会全体を覆い尽くそうとしている。
ほぼ毎日ニュースになる自動走行車、UberやAirbnbなどのシェアリングエコノミー、ビットコインなどのブロックチェーン、メディアの信頼性を揺るがすフェイクニュース、FacebookやTwitterなどSNSの隆盛、マス広告より重視されつつあるデジタル広告、そして、デジタルシフトやデジタル・トランスフォーメーションなど、昨今の社会現象の背景に「社会のリゾーム化」があると考えている。
この流れは今後も勢いを増し、21世紀を特徴づけるものになるはずだ。我々は今、そのような時代の始まりにいると思う。
今、我々にとって「リゾーム化社会」を理解することが、戦略的最重要課題だと私は考えている。なぜなら、今後のビジネスの方向性やマーケティングの未来を透視し、盲目的で自閉的な過去のパラダイムを棄却して、胎動する新たなビジネス戦略を「抽象的に」咀嚼する導火線になるからだ。
その咀嚼力の感度の差が、AIやロボティクス、IoT/IoE、AR/VR、量子コンピューターなどの最先端のテクノロジーを、破壊的(disruptive)なビジネスモデルへと「具体的に」昇華させられるかどうか、その成否を分ける。