良いリードの条件を決める時は、質が先で量は後
――マーケティングはどこから始めたらいいのでしょうか。
営業の立場になり、良いリードとは何かを追求してみてはどうでしょうか。「このリードはいらない」と言われるのであれば、マーケティングが良いと考えるリードと営業が良いと考えるものが違っているわけです。

もし、良いリードとはと問いかけて、営業に「今すぐ発注書をくれるところ」と言われたら、会社としてマーケティングの役割を見直した方がいいです。
逆に、「アポが取れれば何でもいい」と言われたら、マーケティングに対する期待値があまりにも低い。
そんな投げやりな返事しか返ってこないのだとすれば、売上の数字を作ることをマーケティングに求めるのはおかしな話です。代わりにコミュニケーションの役割だけに徹することも、いけないことではないと思いますよ。
営業との対話で必要なのは、営業戦略上の目標に向けたロジックの有無ですね。後ろ盾になるロジックがないと、建設的な対話が難しく、最悪の場合は会議の場で炎上してしまいます。
冒頭でお話した「数字の意味」に関連しますが、ロジックがある場合は、リードの「量」ではなく「質」の話を先にすることがポイントです。営業とリードを共有することは、最終的には「こんな質のリードを何件欲しい」というサービスレベルを、営業の責任者と最終的に合意することになりますから。
もしインサイドセールスがいるならば、その人に仲介してもらうのも一つの手です。インサイドセールスとしては、リードが「良いリード」の条件を満たしていないと営業に渡せないので、営業が期待する水準に詳しいはずだからです。
――インサイドセールスが機能している企業であればよいですが、インサイドセールス機能を持たない企業の場合、マーケターは営業との対話の機会を作るためにどうしたらいいでしょうか。
海外ではマーケティング組織の権限が大きく、KPIを達成するためのプランを作ることに慣れていますが、CMOのいない日本でそれが難しいとすると、外部の第3者がファシリテーターになることでしょうか。
たとえば、私どものようなコンサルタントであれば、「ホットなリードが欲しい」と言われたら、「今までの商談で受注できたのはどんなものだったか」などの質問を繰り返し、「勝率の高い案件にはこんな条件がそろっていた」という回答を引き出すことができます。
社内のインサイドセールスに、第3者の役割を期待することもできますが、その人に強いリーダーシップがないと、マーケティングと営業との板ばさみになるリスクもあるのです。
インサイドセールスがいない時は、幹部候補の若手の営業に味方になってもらってもいいかもしれません。商品がどう買われるかのナレッジがある人は、ツールのような手段を知らなくても、どうすればゴールを達成できるかを知っているので、どんなリードが必要かを言語化することに長けています。営業の中でもそんなセンスがある人を探してみてはどうでしょうか。
――営業経験のないマーケティングにはどんなストレッチが必要になりますか。
リードジェンをやる上では、フィールドセールスの経験は必須ではありません。でも、営業の考え方を理解できるかは重要です。
毎年、定期的にイベントをやるからといって、そこで獲得した名刺の総数を闇雲に増やそうとしても意味がありません。こんな属性の名刺を6月までに3000枚集めないといけない。そのためには、どんなテーマのイベントをいつやるか、予算はいくら必要か……といったように、営業戦略から逆算して目標を定めて、そのためには何をすべきかを考えられる人はストレッチできます。
「去年の5月にイベントをやったから、今年も5月にイベントをやって、名刺の獲得数何%アップを目指します」だと、PDCAサイクルが回っているとは言えません。
外資系企業のように、四半期単位で仮説と施策の結果の検証を行い、次の四半期の予算配分を変えることができればいいのですが、営業戦略とはかけ離れた「机上の計画」を実行するだけの企業が国内では多いかもしれません。
日本企業は発注までのプロセスに時間がかかることが多いため、どうしても検証までに時間がかかってしまいます。そうなると、結局は去年と同じことをやろうとなり、イベントをやることが目的になることが多いです。
去年と違うことをやるための承認を得るのは難しいかもしれませんが、営業戦略に裏打ちされたロジックをもとに「買ってもらえる仕組みづくり」を担うというビジョンがあれば、変革に向けての議論をする環境もひらけるのではないでしょうか。