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リゾームマーケティングの時代

テレビCM崩壊前夜、「イノベーションのジレンマ」に陥っている暇はないのだ

テレビへの情熱と夢は、引き継がれていった

 逸見さんは、その学園祭の翌年、1993年のクリスマスの日に亡くなった。ガンだった。私は当時、竹橋の毎日新聞本社で、テレビ・ラジオ用ニュース原稿などを書くアルバイトをやっていた。たまたま、その日は出勤していて、逸見さんの訃報原稿を自分が書きデスクのOKを取って、提携するネットワーク局にFAXで流した。

 その2日後、学生代表として葬儀・告別式に参列することになる。焼香の順番が回ってきて、「学園祭のときは、本当にありがとうございました。逸見さんの夢、学生達が受け継いでいきます」と、私は心の中で、別れの言葉を告げた。

 焼香のとき、最前列の席で、肩を落とし泣き崩れている人が視界に入った。北野武さんだった。その巨匠の嗚咽が、逸見さんの存在の大きさを、厳かに、物語っていた。

 あとから思えば、あの学園祭の時、逸見さんはわかっていたはずだ。自分がガンであること、もう、あまり長くはないことを。

著者撮影
著者の友人の母が撮影

 逸見さんがあの学園祭に運んできた夢。それは、あの学園祭の空気を吸った学生たちに転移した。

 TBS初田啓介アナウンサー、ニッポン放送山内宏明アナウンサー、篠田和之フリーアナウンサー(元山陽放送)、TBS土井敏之アナウンサー、加藤暁フリーアナウンサー(元九州朝日放送)、文化放送松島茂アナウンサー、北海道放送川畑恒一アナウンサー、福島テレビ藺草英己アナウンサー、節丸裕一フリーアナウンサー、NHK高山哲也アナウンサー、日本テレビ舟津宜史アナウンサー(入社後「Oha!4 NEWS LIVE」プロデューサーなどに転向)など、あの頃の学園祭を一緒にやったメンバーだった。

 そして、逸見さんゲスト番組の裏方を仕切ってくれた古谷英一君は、TBSに入社し「うたばん」などのプロデューサーになった。テレビ局に就職した人は他にもいるが、とにかく当時の「アナウンス研究会」の同期や先輩、後輩から、毎年5人前後のアナウンサーや放送業界人(キー局、地方局)が生まれた。

 逸見さんの夢とテレビへの情熱は、確実に次の世代に引き継がれていった。「アナウンス研究会」は、夢をリレーする素敵なサークルだった。

時を経て、現実はより厳しい状況に

 ところで、私は、逸見さんのテレビへの情熱を直接聞いたにもかかわらず、テレビ局への就職活動を一切しなかった。既にネットに興味があり、アメリカ西海岸に留学。Googleなどを経て、現在ではご縁があって、電通デジタルや電通総研の仕事をしている。

 その電通総研だが、今年は、「メディアの信頼性と社会的役割」と「人口減少とマーケティング」の2つをメインテーマに掲げる。活動の一つに「ラウンドテーブル」という場があり、電通総研フェロー15人が原則1ヶ月2回集まって議論し、そこで得たアイデアや学びをそれぞれの情報発信や会社経営などで実践、社会に還元していく。

 電通総研は、当然、テレビのことも扱う。たとえば、低下を続ける視聴率、あるいは、電通の「日本の広告費」の数字が共有され、テレビの厳しい現状と未来について意見が飛び交う。

 「このペースだと、2020年ごろに、ネット広告に追い抜かれるね」「ネットフリックスの制作費はテレビ局より一桁多いらしい」「スポンサー離れによって、制作費が減少し、番組の質がますます劣化するかも」などなど、様々な意見がでる。

 私はその度に、「これからテレビはどんどん良くなるよ」という逸見さんの言葉を思い出し、「ご恩に報いていない」と心苦しくなる。

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「マス連動」と「リゾーム化社会」

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この記事の著者

有園 雄一(アリゾノ ユウイチ)

Regional Vice President, Microsoft Advertising Japan

早稲田大学政治経済学部卒。1995年、学部生時代に執筆した「貨幣の複数性」(卒業論文)が「現代思想」(青土社 1995年9月 貨幣とナショナリズム<特集>)で出版される。2004年、日本初のマス連動施策を考案。オーバーチュア株式会...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2018/05/18 08:00 https://markezine.jp/article/detail/28357

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