11年続くキャンペーン、その鍵は「真」課題の共有にあり
――11年同じキャンペーンが続くのは、地方では異例だと思うのですが、どういったことをされているのですか。
沖縄県のコンビニは、ファミリーマートとローソンの2つしかありません。そして、一番沖縄に根付き、歴史があり店鋪数が多いコンビニが、ファミリーマートさんになります。しかし「セブンイレブンさんの沖縄進出のニュースや出店競争の加速」といった危機感がありました。
その状況下で「やっぱり沖縄のコンビニと言えばファミリーマートだよね」と思ってもらうための広告活動を行っています。沖縄は“ゆいまーる”という相互扶助の精神が根深い場所であるのを踏まえ、現在は「結。沖縄は家族。」というキャッチコピーで展開を続けています。
企画の発端は、経営者がどういうことを考えているのか経営視点に立ち、「真」課題を共有して始まった企画だからこそ、11年もの間続いていると思います。
――課題が共有されていれば、アウトプットする際にそんなに苦労することはなくなるのでしょうか。
はい、アイデアの方向性をぐるぐる考えることがありませんのでスムーズです。極端な例ですが、「頭痛」を風邪の初期症状と判断するのか、眼精疲労と判断するのかで対処方法はまったく変わってきます。風邪であれば風邪薬ですし、眼精疲労であれば眼科で診療してもらうことも考えられます。
――良いクリエイティブを作るため、「真」課題の共有以外にも重要だと考えているポイントはありますか。
課題の中に潜む危機感を理解することでしょうか。ざっくばらんに意見交換をしている際、「今一番危機に思っていることはなんですか」とお尋ねします。
「10年後、会社がないかもしれない」という危機感の中でのキャンペーンと、「競合商品との差別化ができなくなっている」という危機感の中でのキャンペーンは、きっと違います。危機感を共有させていただくことで、深く課題を理解することができますし、またクライアントさんの深い意識との調和も実現します。
その企画、“一言”で伝わりますか?
――デジタルメディア・広告が力を持つようになってきましたが、上野さんから見てデジタルとアナログの表現の仕方、企画の考え方に違いはありますか。
テレビCMをはじめとしたマス広告を企画する時、その企画を“一言”で表せるかどうかをすごく大事にしてきました。一言は、流通しやすい=拡散しやすいという点において重要です。
そしてデジタルは、それがより顕著です。つまり、デジタル・アナログの考え方に大きな違いはありません。
――テレビCMでは“一言”だったのが、デジタルだとより短くなるんですね。
佐賀県のプロジェクトで、メディアアーティストの落合陽一氏とコラボレーションした「YOBUKO 限りなく透明に近いイカ」という企画を弊社が手掛けたのですが、これも「落合陽一がイカ」と、言い表せますし、なぜその組み合わせなのかも気になりますよね。
ビジュアルも見たことがない世界が広がっているものなので拡散しやすい。そうした見たことのない、インパクトのある一枚絵を作るというのも、拡散させるための重要なポイントです。
2015年に福岡天神にあるデパート、ソラリアプラザのリニューアルCMを企画した時も、天神にフラワーアーティストのニコライ・バーグマン監修の花を大量に降らせる内容にしたのですが、これは「花が天神に降っているCM」という本企画のキーになる一言と、「見たことのない景色」をコンセプトに映像を考えました。
一言で言える企画。もしくは画像一枚で興味喚起できるものでないとコンテンツの力としては弱いですね。この点は、どのチャネルでも同じだと思います。