不動産業界のデジタルマーケティングを発展させるために
プライムクロスが創業した2006年当時、ネット広告をはじめとするデジタルマーケティングは既に様々な業界で活発化していたものの、不動産業界ではなかなか発展が進まず、従来のチラシや折り込み、DMなどに頼ったプロモーションが主流であった。
そのような中、分譲マンション業界でいち早く積極的にデジタルマーケティングに取り組み、成果を上げていたのが、野村不動産だ。
当時、不動産業界におけるエリアマーケティングのニーズや物件の販売スケジュールに即して、デジタル施策を提案できるエージェンシーは不在であった。これに目を付けた野村不動産が、そのノウハウや知見を自社内で留めることなく業界へ広げていくことがビジネスチャンスであり、何より業界の発展につながると考え、セプテーニとの共同出資によりプライムクロスを設立したという経緯がある。
そして、プライムクロスとヤフーが協力して提供する、分譲マンションのプロモーションに特化した独自のパッケージプランも、業界のニーズやクライアントの予算規模に即したものである。柔軟かつきめ細やかなデジタルマーケティング施策を可能にする同プランを本稿で詳説していく。
媒体の総合力を活かせるチーム体制へと改変
エージェンシーの組織体制は、様々だ。媒体・業界・プロダクトごとなど、チーム編成の方法は企業によって異なり、各々試行錯誤を繰り返している。
実際にプライムクロスも、2017年4月にチームの再編成を行った。それまでリスティング広告やディスプレイ広告など手法ごとに分けていたチームを、媒体ごとのチームに組み直したのだ。その目的は、媒体を統合的に活用することによる、クライアントの広告効果改善と媒体取扱高最大化の両立である。
たとえばヤフーのように、多岐に亘る広告プロダクトがある場合、手法単位でチームを分断していると統合的な広告運用が難しくなる。さらに手法やプロダクトごとの局所的な最適化にとどまり、本当の意味でクライアント視点の運用ができない時もある。実際に、プライムクロスでも、一つの媒体で分かれたチーム間の社内摩擦を経験したのだという。
事業のマネジメントにあたっているプライムクロスの新井氏は、「ヤフーの広告プラットフォームを統合的に活用した時に生まれる潜在力を引き出し、クライアントのビジネス成果に貢献したいと考え、チーム体制を変更しました」と話す。また、チーム編成を変更した後の社内の変化について、村岡氏は次のように語る。
「以前は、それぞれのチームでクライアントに向き合って、課題解決の方法を考えていました。ですが、一つのプロダクトだけでは顧客の課題を解決できないこともあります。今の体制になってからは、オプションのメニューなどの組み合わせも考えられるので、クライアントにお返しできる成果の最大化や費用対効果の全体最適化を志向しやすくなりました。結果として、媒体取扱高の向上にもつながっています」(村岡氏)
ヤフーでプライムクロスの営業担当をしている松尾氏も、プライムクロスの組織体制について、このように語る。
「ヤフーの数々のプロダクトを統合的にプランニングいただき、それぞれのクライアント様に合わせたソリューション提供をして下さっています。プロダクトごとに担当者や部署を分けていらっしゃる代理店様も多い中で、プロダクト横断のチーム体制を採っているのは、プライムクロス様の大きな強みであると考えます。
実際に、プライムクロス様のヤフーの広告プロダクトの取扱高は、Yahoo!プレミアムDSPに限らず、他のプロダクトも順調に上がっております」(松尾氏)
Yahoo!プレミアムDSPの強みとプライムクロスの知見を融合
2017年7月、プライムクロスは分譲マンションのデベロッパーに特化した独自のパッケージプランの提供を開始した。このパッケージは「Yahoo!プレミアムDSP」の強みと、プライムクロスが最も得意とする分譲物件の広告運用で積み重ねてきたプロフェッショナルなナレッジを掛け合わせて、生み出されたものだ。
Yahoo!プレミアムDSPの強みは、まず、Yahoo! JAPANのトップページをはじめとする「良質な面」に配信でき、媒体の力を活かした圧倒的なリーチが見込める点が挙げられる。加えて、100種類を超えるサービスをもつ、ヤフーのマルチビッグデータを活用し、狙ったターゲットに的確に広告が届くよう、配信セグメントを柔軟に設定することもできる。これにより、「量」と「質」が伴った広告配信が可能となるのだ。
プライムクロスとヤフーは、個別の販売物件向けに最適な広告手法を提供するため、幾度に亘るディスカッションとトライ&エラーを繰り返し、最適ともいえる広告手法を編み出してきた。
パッケージプランの設計に携わった小杉氏は「分譲マンションのプロモーションでは“エリア”が商材になります。ですので、これまでは、広告配信のセグメンテーションにおいても、配信エリアの設定が必須でした。ですが、プライムクロス様が提供するパッケージプランでは、エリア設定が必要ありません。
不動産業界のターゲティングではエリアを絞ることが主流でしたが、『Yahoo! JAPAN』内にあるユーザーの行動データを駆使することで、エリア設定を拡大し、さらに今までの配信方法では拾えなかった見込み顧客にもリーチできるようになっています」と、両社で協力して提供する同プランの強みを解説する。
“億ション”クラスの富裕層を狙ったターゲティング
では、プライムクロスとヤフーが提供するパッケージプランにより、具体的にどのような広告配信が可能になるのだろうか。簡単に説明すると、資料請求に至った顧客に類似する属性データから最適なセグメントを作成し、Yahoo! JAPAN内の行動データを基に配信を行うことができる。さらに「Yahoo! DMP」と連携すれば、チャネル横断型のセグメント作成も可能だ。
たとえば、いわゆる“億ション”と呼ばれるような、高級分譲マンションのプロモーションを行うとしよう。この場合、富裕層に共通する趣味嗜好を軸に、広告を配信するという方法が一つ考えられる。富裕層の趣味嗜好に沿っていると考えられるサイトに訪れたユーザーに類似するセグメントに向けて、広告を配信するのだ。
実はプライムクロスでは、これと同じ方法で広告配信を行っており、既に一つの勝ちパターンとして活用しているそうだ。この手法により全体のコンバージョンを高めることに成功しており、実際にクライアントからの反響も良い。
「クライアント様からは、実際の成約につながっているといった嬉しい反応を頂いています。ほかにも資料請求に至った人の類似リストを作成して、ターゲティング配信をすることもあるのですが、このターゲティング手法では成果単価を抑えながらも、新規の資料請求者を獲得することができています。これは『Yahoo!プレミアムDSP』ならではのターゲティング手法ですが、この手法が不動産業界には非常にマッチしていると感じています」(伊東氏)
資料請求で終わらない、本質的なクライアントのゴールを目指して
今後追求していきたいことを新井氏に聞くと「クライアントの成約への貢献」という答えが返ってきた。合わせて、これまでデジタル施策のKPIは資料請求とされることが多かったが、これが主流ではなくなりつつあるという変化にも言及した。
今までは効果測定が難しいことを理由に、やむなく資料請求をKPIにすることが多かった。だが、クライアントのゴールは“資料請求”ではなく“成約”である。
「広告を見て、実際にモデルルームや展示場まで足を運んでもらうことをいかにサポートするかに注力していきたいですね。極端な話、資料請求をしていただくよりも、スマホで広告を目にして、興味関心を抱き、そのまま足を運んでいただくことのほうが重要で効果的だと思います。そういったオフラインの行動データから逆算してターゲティングに活かすことができればと考えています」(新井氏)
また、分譲マンションのプロモーション以外にも、賃貸や仲介など新しい領域での取り組みも視野に入れているそうだ。
「今回のヤフー様との取り組みでは、二人三脚で課題を解決する方法を見つけることができました。この協力関係下で、これからも新たなプロモーション手法や施策を一緒に編み出していきたいと考えています」(新井氏)
「たとえば、動画広告の活用に関しては、まだ不動産業界での成功事例を生み出せていない部分です。ヤフーというプラットフォームは、獲得だけでなくブランディングにも強いので、Yahoo!プレミアムDSPでの成功体験を活かして、一緒にアイデアを出し合いながら、もっとクライアントの成果に貢献できるようにしていきたいですね」(伊東氏)
また、ヤフーとしても、広告主の課題にしっかりと寄り添い、不動産業界全体の発展に貢献できる媒体になるよう、引き続き取り組んでいく構えだ。
「オフラインでの成約という文脈でも効果をお返しできるソリューションを提供することは、ヤフーの課題でもあります。引き続き、両社で密にコミュニケーションを取りながら、弊社のもつソリューションでの、広告主様ひいては業界全体のデジタルマーケティング上の本質的な課題解決を、プライムクロス様と一緒に目指していきたいです」(松尾氏)