テレビでもラジオでもない、まったく新しい“第3の放送”として注目を集める放送サービス「i-dio」。かつてアナログ放送で使われていた周波帯域を使用し、エンターテインメントの側面だけでなく、災害情報を伝える防災面からも期待を寄せられています。
「i-dio」の主要なサービスは誰もが無料でダウンロードできるスマートフォンアプリを介しても視聴可能なサービスですが、2018年2月、このアプリが大きくリニューアルし、新たなUI/UXに生まれ変わりました。大幅刷新の背景にはどんな課題があったのか、そして、どのように改善をし、どのような結果が得られたのか。
「i-dio」における通信インフラの整備に従事し、アプリ開発を進める株式会社VIPの長谷川修平氏、UI/UXの専門家としてアプリの大幅リニューアルを指揮した株式会社D2C dotの五十嵐友子氏に、お話を伺いました。
テレビでもラジオでもない、まったく新しい放送サービス
――新たな放送サービスとして2016年7月にスタートした「i-dio」。iPhoneやAndroidのアプリを通じても視聴可能なサービスですが、先日、アプリの新バージョンがリリースされました。今回のリリースでは大幅なリニューアルがなされ、とりわけUI/UXの改善に注力されたと伺っていますが、あらためて「i-dio」とはどのようなサービスなのか、概要からお聞かせください。
長谷川:皆さんご存知の通り、テレビ放送がアナログからデジタルに移行し、2015年3月にはアナログ放送が完全終了を迎えました。そこでアナログ放送に使用されていたVHF-Lowという周波数帯域が、いわば“空き地”の状態となった。その“空き地”を有効活用しようと始まったのが、「i-dio」という放送サービスです。
国内を7エリアに分け、現在(2018年4月取材時点)は関東・甲信越、東海・北陸、近畿、九州・沖縄の4エリアで視聴いただけますが、残りの北海道、東北、中国・四国についても、年内の放送開始を予定しています。
「i-dio」はテレビでもラジオでもないまったく新しい“第3の放送”として、デジタルデータであれば、なんでも送信できることが強みです。最近、スタートした『アニソンHOLIC』という番組を例にすると、「この曲とこの曲、どっちが聴きたい?」と視聴者からデータ放送画面で投票を募り、ユーザー参加型の番組作りを実践しています。
また、地域に特化した災害情報を届ける役目も担っていますが、誰もが無料でダウンロードできるスマホアプリが主要な受信機器の一つとなることも大きな特長です。
広告流入からの「残存率ゼロ」から明確になったUI/UXの重要性
――今回、その主要な受信機器となるアプリを刷新されたわけですが、大幅なリニューアルを要した背景には、どのような課題があったのでしょう?
長谷川:開業当初はいわゆるアーリーアダプターやラジオファンが熱心にアプリを利用してくださったのですが、サービス開始から数ヵ月経ち、ある程度アプリのダウンロードが落ち着いたタイミングで広告施策を打ちました。
「まずはアプリのダウンロード数を大きく伸ばそう」という目的でしたが、ここで明らかになった数字が、リニューアルの大きな背景です。確かにダウンロード数は伸びましたが、広告から流入した新規ユーザーのおよそ一週間での残存率が、ほぼゼロ。一時的な関心でダウンロードしたユーザーからは、「落としてはみたものの、使い方がわからない。だから放っておこう」と、離脱されてしまったのでしょう。
開発側の人間なら経験があるかと思いますが、私たち開発者は、どうしてもアプリに対する思い入れが強い。同時に度重なるテストを通じ、操作にも慣れきっています。そのため、どこか客観性を見失っていたのかもしれません。となれば明確な客観性のもとに、改善をしなければならない。そこでどのように改善していくべきか、UI/UXのデザインに強いD2C dotさんにご相談をしたのが始まりです。
――具体的にどのようにリニューアルを進めていったのでしょうか?
長谷川:まずはアプリのユーザーからモニターを募り、操作性に関するアンケートを実施することからスタートしました。その回答をD2C dotさんと共有し、集計や解析をお願いしたというプロセスです。
五十嵐:共有いただいた回答を解析したところ、「初期設定のやり方がわからない」「番組表の見方がわからない」と、やはりUI/UXに関わる問題点が浮き彫りになりました。ただ、それだけでは「わからない」ということがわかっただけに過ぎません。では、どうすれば「わかる」ように改善できるのかを知るため、新たにモニターを募り、ユーザビリティテストを行っています。