データの主導権はユーザーに。Googleのビジネスへの影響は?

James:Googleは広告の検証についてはどのように進み、適合させていくのでしょうか?FacebookはMRCをアップデートし、またAppNexusや他のDSPはまだMRC認定をもっていませんが(※MRC=米国の広告監査機関(Media Rating Council:メディア調査会社の監査や認定審査を行う業界団体)。
Dan:我々は共通の基準を支持しています。業界にとってもとても重要な事だと考えています。デジタル(業界)によりお金が流れるように期待するのであれば、どこでも使える“共通通貨“を持たなければなりません。Googleは既に30種ものMRC認定を保持しています。さらに、DFP関連ではこの他に40以上もの認定を得る最終段階にあります。
その中でも、ビューアビリティは特に重要です。これは、早急に広告主が期待する最低限の“共通通貨“になると考えています。これは、リーチのみならず、ビュースルーコンバージョンやアトリビューション分析へもつながっていくでしょう。
我々は特にDoubleClickにおいては2017年よりも前から第3者パートナーシップについて考えています。また、計測基準についてもベストな状態にしていきたいし、そのためにも信頼できるパートナーの選択ができるようにしていきたいと考えています。これは、広告主も率直に求めていることで、非常に理にかなっており、我々の信頼の大きな部分を占める問題でもあると考えています。
James:ユーザーが自らのデータをコントロールしデータを消去したりできるようになってきています。それはGoogleのビジネスに何かインパクトがありますか?
Dan:Googleアカウントのプライバシー情報はユーザーがコントロールすることができます。これまでの閲覧履歴を消去することも広告のオプトアウトも可能です。我々の調査では、多くのユーザーが自身のプライバシーページをチェックしており、その中には自分の広告の嗜好を変更したりする人もいました。しかし、そのような人はごく少数で、重要なことは、パーソナライズ広告はオプトアウトできる、という事です。
ユーザーが広告についてコントロールできるという事は、ユーザーにとっても広告主にとってもパブリッシャーにとても良い事です。たとえばオプトアウトであれば、それはそのユーザーに広告が関係ないというシグナルであり、そのような広告は歓迎されず、おそらくコンバージョンもしないでしょう。
James:アトリビューションについても多くの変化があるようですが、それは今後どのようなインパクトがありますか?
Dan:マクロの動向で言えば、Google アナリティクス360とSalesforceの連携のように、顧客自身の販売データを広告からの行動データと連携して(アトリビューション分析にも)利用可能になる、という事などがありました。また、Googleアトリビューションのように時間がかかりましたが大きな前進もありました。データを統合し、どのように素早く行動できるか?どのようにデータドリブンモデルを使いバイイングに活かせるか?に向かって動いています。
顧客は、データを使って自身で分析と最適化をやるか、また彼ら自身の中でツールが(自動で)やるか?という選択になって行くでしょう。
James:それは、常に1つのアトリビューションベンダーを使う、という状況になるということでしょうか?
Dan:1つの技術プラットフォーム上で、プランニングからバイイング、アトリビューションまでの価値を見ている顧客もいると思いますが、それだけではないと思います。DoubleClickのように、他のプラットフォームとの相互運用性が特徴のものもあります。必ずしも“1頭のレース“ではないと思います。
James:Googleの内部で、クラウド(GCP)とアナリティクスと広告計測との間の舞台裏での(連携の)仕事が増えているように思いますがいかがですか?様々なトランザクションデータやオフラインコンバージョンデータが、RTBやメディア側に近いところで活用されてきていると思いますが。
Dan:確かにバイイングとメジャメントグループは以前よりも密接に仕事をしています。常に顧客のために何が必要かを一緒に考えているのです。過去1年間に起きたでの変化、たとえば新しいバイイングツールの開発や新しい広告フォーマット、新しいGoogle アナリティクスでのレポートなどは、すべて将来どのように“Googleアトリビューション”にプラグインするか、ということにつながっていると思います。それは、広告主やすべてのマーケターのために、すべての事が1つになるということを考えているということだと思います。それが、我々の中に起きている変化です。

James:最後に、今後のプログラマティック広告とGoogleにとって重要なトレンドは何だと考えていますか?
Dan:まだまだ変動が多いプログラマティックの世界ですが、いくつか関心のあるポイントがあります。その1つは、プログラマティックがプライベートマーケットプレイスや直接取引の領域でどのように発展していくのか、という事です。顧客企業は、プログラマティックバイイングやユーザーインサイトの価値に不安を抱いている部分もありますが、予約購入(reservation buying)については大きく成長していると思います。
我々が発表した調査でニールセンとBCG(ボストンコンサルティンググループ)とのリリースによれば、予約購入とRTBとの両方を使ったほうが同じ投資額で11%のリーチ拡大になり、プロググラマティックからの予約購入によってパブリッシャーの時間効率を50%改善し、代理店の効率も30%改善した、というものがあります(参考記事:A Guaranteed Opportunity in Programmatic Advertising)。
異なるタイプのバイイングの仕組みを1つのプログラマティックの世界で組み合わせるという新しい価値が動き出していると感じています。
PROGRAMMATIC I/O San Franciscoにおける3つの要点
「新しい技術」よりも「現状の課題への取り組み」がメイン
今回のPROGRAMMATIC I/O San Francisco全体を通じて感じたことは、既に特定の技術や仕組みによる“新しい出来事”に関する話題はなく(これはアドテク全体にいえることかと思いますが)、データのプライバシーや取引の透明性、調査や測定領域への“第三者”の組み込みなど、ネット広告全体が直面している課題についての話題が、かなり多くのセッション内で繰り返されていたという印象でした。
「AI」に関連するプレーヤーのセッションもいくつかありましたが、取得したデータのAIによる分析と、その自動化活用という文脈においては“目新しさ”を欠くテーマであり、既に活用事例が待たれる段階にあるという認識を持ちました。
「TV」への取り組み
その中でも「Advanced TV」や「Connected TV」といった、いわゆる“インターネットTV”については、日本市場とは異なり普及段階にあると思われます。複数のネットTV事業者のセッションで語られていた論点としては(ネット広告との比較ではなく)既存TVとの比較において、どれだけターゲティングに優位性があるか(世帯や個人レベルで詳細なターゲティングとリアルタイムなレポーティングと分析が可能であるか)、という事であって、新しいメディアやコンテンツという切り口からの議論では無かった点については少々残念な感がありました。
注目を集めた「Facebook」と「Google」の話
多くがスポンサーセッションのプレゼンテーションであったこととは対照的に、FacebookとGoogleについてはインタビュー形式のトークセッションで展開されました。そこで何が語られるのかについて、他のセッションにくらべ注目を集めたことは間違いないでしょう。
両セッションとも、透明性やデータプライバシーについての考え方や取り組みについての言及がある中で「これから」の取り組みについて両社のキーパーソンの言葉で直接聞くことができたのは大きな収穫であったと思います。
FacebookのROIへの取り組み、Googleが“マーケティングプラットフォーム化”の全体像が見えてきた中で、プログラマティックバイイングの中に新しい価値を見出そうとしている点は今後も注目をしていきたいと思います。
※本稿は、筆者の理解に基づきセッション内容を解説しているものです。特定のツールや機能の情報については、各ベンダーのアナウンスをご確認ください。