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MarkeZine Day 2025 Retail

定期誌『MarkeZine』特集

口コミが消費者の意思決定に及ぼす影響と活用の道筋

自然発生的な口コミ

「自然発生的な口コミ(Organic WOM)」

 顧客が製品について満足し、企業をサポートしたいという気持ちや熱意を共有したいと思い、支持者(advocates)になった時に自然発生的に起きる。

そのための企業活動例
  1. 顧客満足に焦点を当てる取り組み
  2. 製品の品質と使いやすさを向上させる
  3. 不安や批判に応える
  4. 対話を開始して、人々の話を聞く

 これは、ブランドの支持者(advocates)は自然と口コミをしてくれるだろう、という観点に基づき、企業が自社ブランドの支持者を作りだすための方法論について述べている。

 支持者とは、近年、日本でも注目されているブランド・アドボケイツのことであり、もっと一般的な言葉で言えば、ブランドのファンのことである。つまりこの方向で企業が口コミの発生に努力するということは、企業が自社のファンを作りだすために努力するということになる。

 そのための方法論として、WOMMAは、「顧客満足」を挙げている。この指摘も参考になる。つまり「顧客満足度」を上げることは自社のファンづくりになる、ということだからだ。

 今まで企業は顧客満足度を高めるために、様々な取り組みを行ってきた。製品の品質やサービス向上などは最もわかりやすい例だ。また現在、多くの企業で行われている「コールセンター」や「お客様相談室」など、顧客満足度向上を目的とするCS推進室や、CS担当といった部署による業務、あるいはソーシャルメディア上で行われている「アクティブサポート」など、顧客満足度を高める企業活動は、自然発生的な口コミにつながるというのである。

 これらは一見地味に思われるかもしれないが、大変現実的な考え方であり方法論である。人は自分が好きな製品、あるいは購入した製品やサービスについて期待していた以上の満足を得たとき、その気持ちを誰かに伝えたくなるもので、それは自然な感情である。そうした感情を動かそうというのがこの考え方である。

 また、企業やブランドに対する支持者が、そもそもベースとして世の中に存在しないと、次の「喚起された口コミ」を起こすことはなかなか難しい。

喚起された口コミ(口コミ・マーケティング)

喚起された口コミ(Amplified WOM)

 マーケターが既存のコミュニティや新しいコミュニティの口コミを促進させたり加速させたりするキャンペーンを立ち上げたときに発生する。

そのための企業活動例
  1. コミュニティを作る
  2. そのコミュニティにいる人たちの意見が共有されやすいツールを開発する
  3. 支持者(advocates)とエバンジェリストに対して、積極的に製品を宣伝してもらえるようにやる気になってもらう
  4. 支持者が共有できるように情報を与える

 この特徴は、企業が働きかけることで、より積極的に増幅させる口コミについて述べている点だ。その際、コミュニティへの働きかけに言及している点に注目していただきたい。具体的な活動例として、自社ブランドのコミュニティを作ったり、コミュニティの口コミを活性化させるようなキャンペーンを行ったり、意見を共有できるツールを開発してコミュニティへ提供することが挙げられている。

 これは最近、注目が集まっている「コミュニティ・マーケティング」と関係がある。もちろん、モノが売れない時代にあって、新たなマーケティングの可能性がコミュニティへの着目にあるのは間違いない。ではなぜ、コミュニティなのか。

 それは「最も古いマーケティング手法」である口コミが、ネットの発展によって再び注目されてきたからだ。つまり、口コミ・マーケティングの具体策として、コミュニティが注目されているのである。

 もちろんコミュニティ・マーケティングの目的は口コミだけではない。しかし、口コミを喚起したり、増幅させたりできる装置としてコミュニティが機能するというWOMMAの指摘を参考にすると、コミュニティの活用は口コミ・マーケティングの大本命と言っても過言ではない。

 なお、支持者(advocates)とはブランド・アドボケイツであり、ブランドのファンと言い換えられると先に述べた。このように考えると、企業が自社のファンに対して働きかけを行ったり、情報を提供したりする活動もまた、WOMMAが提唱する口コミ・マーケティングの具体策のひとつだ。

 たとえば、企業が自社のファンに対して積極的に向き合うことは、ファンの口コミを活性化させることにつながる。ファンサイトや、ファンミーティングでの情報、ファン限定の体験会などは、ファンの口コミを喚起することにつながるだろう。各社が行っているファン施策、たとえばヤッホーブルーイングが行っている「よなよなエールの超宴」など、ファンを活用した成功事例からは学べる点がたくさんある(図表4)。

図表4 ファンを重視している企業コミュニティの事例 ヤッホーブルーイング「よなよなエールの超宴」https://yohobrewing.com/cho_utage2017/ ケンタッキー「カーネルクラブ コミュニティ」https://voc.kfc.co.jp/ カゴメ「アンドカゴメ」https://and.kagome.co.jp/ デル アンバサダープログラムhttps://dell-ambassador.com/ 
図表4 ファンを重視している企業コミュニティの事例(上段から順に)
ヤッホーブルーイング「よなよなエールの超宴」
ケンタッキー「カーネルクラブ コミュニティ」
カゴメ「アンドカゴメ」
デル アンバサダープログラム

 つまり、近年注目されているファンを重視したファンベース・マーケティングもまた、「最も古いマーケティング手法」である口コミへの着目から、存在意義が高まってきたと言えるのだ。

 WOMMAによる“そのコミュニティにいる人たちの意見が共有されやすいツールを開発する”という活動例は、米国や日本でベストセラーになり、ソーシャルメディアマーケティングの教科書として知られる『グランズウェル』(翔泳社)でも、「支援戦略」として紹介されている。コミュニティにいるファンにとって、意見を共有できるツールがあれば、口コミは第三者に手軽に拡散できる。したがってそうしたツールやWebサイトの開発は、口コミ・マーケティングを後押しする施策になるのだ。

 WOMMAによる“積極的に製品を宣伝してもらえるようにやる気になってもらう”という活動例は、たとえばスターバックスが会員へ行っている新商品の先行案内などが挙げられるだろう。

 企業がホームページなどで自社ブランドのファンをアンバサダーとして募集し、企業が「アンバサダープログラム」を運営している事例も、WOMMAの指摘を参考にすると理にかなっていることがわかる。つまり、ブランドのファンによるコミュニティが「アンバサダープログラム」なのである。従って「アンバサダープログラム」も口コミ・マーケティングの具体例というわけだ。

 ビジネスモデルに目が行きがちだが、「ネスカフェ アンバサダー」も、企業によるコミュニティづくりであり、企業が行う施策の数々は口コミの喚起になっている。

 たとえば他にも、デルが行っている「デル アンバサダープログラム」などは、口コミを意識しているものの、もはやブランディングをはじめとする統合型マーケティングの一環としてコミュニティを捉えている最先端の事例と言えるだろう。

 この章のまとめとして、企業がファンやアンバサダーから構成されているコミュニティと、より積極的に行うマーケティング活動について触れておく。図表5における、「企業」と「コミュニティ」の間の関係がそれだ。ここには口コミだけではない、今までにない、新しい展開が生まれている。

図表5 口コミ・マーケティングのメカニズム
図表5 口コミ・マーケティングのメカニズム

 通常の広告マーケティング活動はマーケターが主軸に行うものだが、たとえば企業の開発チームがコミュニティの人たちとミーティングを行うことで、商品に関するフィードバックを得ることができる。あるいは新商品のベータ版の試用や、体験モニターを特別に行ってもらうことも可能だ。社員のモチベーションアップを目的とした企業の営業チームとの座談会やヒアリング、企業のインターナル施策としての交流会も現実に行われている。また、彼らに対する調査から、今まで発見できなかったインサイトを発見する試みも行われている。口コミ・マーケティングのメカニズムがもたらすつながりは、様々な場面で、想像以上の良い成果を上げている。

 最近、語られている、いくつかのマーケティング活動の根底には、実は「最も古いマーケティング手法」である口コミへの再注目という背景があり、実はすべてがつながっていると考えると理解しやすいのではないだろうか。

次のページ
ポジティブな口コミを誘発するためのコミュニティ活用

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この記事の著者

藤崎 実(フジサキ ミノル)

東京工科大学 メディア学部 専任講師
博報堂宗形チーム、大広インテレクト、読売広告社、TBWA\HAKUHODO、アジャイルメディア・ネットワークを経て現職。東京コピーライターズクラブ会員。CMプランナーを経てクリエイティブディレクター、マーケティングディレクター。変わりゆく時代とメディアの最前線を歩み、常に先駆的な...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2018/07/25 13:15 https://markezine.jp/article/detail/28857

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