米国での潮流:WOMMAが全米広告主協会(ANA)の一部門に
マーケティングは米国で生まれた。そこでまず、米国における口コミ・マーケティングの歴史や最新動向をご紹介する。なお、英語で口コミに当たる言葉は「Wordof Mouth」でありWOMと略され、口コミ・マーケティングは「WOMマーケティング」と呼ばれている。
早くからネット上の口コミが注目されていた米国では2004年に業界団体として「WOMマーケティング協会」(Word of Mouth MarketingAssociation:通称WOMMA)が設立された。

WOMMAの会員社には大手広告主、メディア社、広告・広報企業など110社が名を連ね、口コミ・マーケティング市場の健全な育成を目的に、研究調査やセミナー、優れた事例を表彰する活動などを行ってきた。
WOMMAは、ほぼ毎年、世界中から口コミ・マーケティングに関わるマーケターが参加する「WOMMA Summit」を開催し、カンファレンスやトレンドの勉強会、WOMMY Awardsでの表彰、世界最先端の事例共有を行ってきた。ちなみに2017年4月にニューヨークで開催された「WOMMASummit 2017」のテーマは「マイクロ・インフルエンサー」だった。現在日本で注目されているインフルエンサーへの注目は、WOMMAで既に指摘された流れだったというわけだ。
実は日本にも、WOMMAと提携・交流を行っている「WOMマーケティング協議会(通称:WOMJ)」※1があり、口コミ・マーケティングにおける「ガイドライン」を策定、事例共有セミナーなどを定期開催している。筆者は副理事長と事例共有委員会の委員長を務めている。
そのWOMMAに今年1月、動きがあった。WOMMAという団体そのものが、全米広告主協会(Association of National Advertisers:通称ANA)に買収されたのである。ここで注目すべきは、WOMMAが同様のマーケティング団体との合流ではなく、1910年設立という歴史を誇り、1,000社以上の広告主や750人以上の広告主担当者が加入している広告主団体の一部門になるという発表である。WOMMAおよびANAからの発表によれば、WOMMAは今後、全米広告主協会の中の一部門、「口コミ・マーケティンググループ」になることで発展的な進化を始めるという。
実はこの状況についてはWOMJの国際委員会が問い合わせをしている最中なので、残念ながら本稿で正確な詳細を述べることはできない。従って、以下はあくまで私見になるが、これは口コミが広告主にとって、もはや無視できない重要なマーケティング要素になってきていることへの対応強化の表れだと考えている。
広告主団体としても、通常のプロモーションや広告効果を考えるのと同じように、口コミ・マーケティングの研究グループを団体の一部門にしようと考えたわけだ。今後は広告主が主体となって口コミの研究が進むことが想像される。この動向には大いに期待したい。
※1 WOMマーケティング協議会。通称、WOMJ。2009年7月、WOMマーケティング業界の健全なる育成と啓発に寄与するため発足した。2017年12月に5年ぶりの改定となる「ガイドライン」を発表した。
口コミの進化の変遷〜リアルな口コミから多様化へ
「口コミは信頼していない」と言いつつも、アマゾンや価格ドットコムのレビューをチェックする人は多い。何か商品を購入する際に、既に使っている人の感想を参考にすることは、ごく自然な行為だ。
口コミの本質を考える際に大切なのは、現在、一般的に行われているマス・マーケティングの発想を一旦外して考えることだ。新聞もテレビCMもラジオもなかった時代にさかのぼり、人が「商取引」を始めた時代に、何が商品購入の決め手になったかを考えれば、その本質はおのずと明らかだ。
ヨーロッパや江戸で商人が活躍していた時代、その商品の売れ行きを左右していたのは、誰かの評判である。人から人へ語られる商品やサービスに関する感想や使い勝手、人の評判こそが、商品の良し悪しを知る決め手だったのだ。
ではどうして人は口コミを行うのか。それは人には自分が得た知識や体験を他の人の参考にしてもらいたいという気持ちがあるからだ。すなわち口コミとは、マス・マーケティング以前の、「最も古いマーケティング手法」なのである。まず、そこを基本と考えることが大切だ。
なお、口コミを活性化させるために商人たちは良い評判を作ろうと様々な努力を行ってきたが、たとえば手ぬぐいや風呂敷などのノベルティのプレゼント、地域のお祭りへの協賛なども評判を高める活動と考えることができる。
そして口コミが一気に注目され始めたのはネットの発展だ。それまでの口コミは対面によるリアルのものだったので、「消失性」という弱点があった。言葉は消えてしまうので、口コミは「同時間・同場所」にいる人にしか伝えることができなかった。その場にいない人には口コミは「噂話」として流通していくしか手段がなかった。
しかし、ネットの発展により、口コミは「記録性」を手にする。ネット上に書かれた口コミは「同時間・同場所」にいない人でも自由にアクセスできるようになった。これは口コミの「消失性」という弱点をカバーしているだけでなく、「検索」によって口コミを顕在化させることができるようになった点が画期的だ。今や検索によって、たとえば10年前の口コミでも自由に手に入れることができる。
対面だけだった口コミはネットと融合して、現在に蘇り、さらにどんどん発展している。元々は当事者同士のものだった口コミは、ネットの特性である可視化によって、第三者からもアクセスできるようになった。SNSやテクノロジーの発展も、その多様性を後押ししている。当初はテキストベースだった「記録性」も、Instagramなどの「画像」での発信など、多様性をみせている。
今後もカタチを変えてさらに発展していくことが想定されるが、すべて口コミをパワーアップさせる手段の多様化と考えれば納得ができる。人はもっと詳しく知りたいし、テキストではわからないことは画像や映像で知りたい。情報を発信する側も、様々な方法で情報を伝えたいと思っている。メディアの発展によって、情報発信による自己の承認欲求が後押しされている点も、口コミ情報が活況を呈している理由として挙げられる(図表1)。
