口コミと口コミ・マーケティングの定義
そもそも口コミとは何か。口コミ行為自体は「最も古いマーケティング手法」と言えるが、「口コミ」という言葉は、大宅壮一氏によって1960年代に作られた造語である。大宅氏は、テレビ・新聞・雑誌・ラジオなどの公的な「マス・コミュニケーション」に対して、一般の人々による「クチ(口)・コミュニケーション」という言葉を提唱した。そして省略した「口コミ」という言葉が社会一般に定着していった。大宅氏はジャーナリストなので社会的な状況を切り取った造語の提唱を行ったが、マーケティング的な定義がそこにあるわけではない。
一方、WOMMAでは口コミをマーケティングに活用するための「WOMマーケティング」の定義や概念を整理している※2(図表2)。

ここにはマーケティング先進国にふさわしく、私たちが実際に参考にできるヒントがたくさんある。下記の定義も大変明快であり、思考を整理するのに役立つ。
一般に口コミ・マーケティングをどのように行ったらいいのか、マーケターは取り掛かりが難しいと考えがちであるが、WOMMAによる定義は大いに参考になる(図表3)。

たとえばマクドナルドの一連のキャンペーンなどは、まさしくこの文脈に当てはまる。
2018年5月、第71回広告電通賞を受賞(アクティベーション・プランニング部門/セールス部門最優秀賞受賞)した「東京ローストビーフバーガー 大阪ビーフカツバーガー(おいしさ対決!マックなのかマクドなのか)」なども、企業が消費者を巻き込んで東京と大阪を対決させることで“話題にする理由を人々に与えている”というわけだ。
また、WOMMAによる解説も参考になる。WOMMAは、“そもそも口コミという現象は昔からあるものであり、口コミ・マーケティングとして学んでいるのは、そうした昔から存在している口コミという行為を活用し、増幅させ、どうしたら改善できるかの方法論である”と述べている。
こうした文脈からは、最新テクノロジーの機能を追ったり、次はどのプラットフォームが流行るのだろうかなどと考えたりする思考とは真逆の主張が読み解ける。つまり、ネット上の口コミとは、昔から行われてきた人間の行為がテクノロジーの発展によってパワーアップしただけであり、そう考えれば、今後も変わらぬ基本的な認識が重要だ、という主張だ。
さらに、“口コミ・マーケティングとは、口コミを創造(クリエイティング)することではなく、企業のマーケターが目的を達成するための仕組みづくりを学ぶことである”という重要な主張もご紹介する。ここにも大きなヒントがある。
一般に口コミ・マーケティングを行おうと考えた時、どのように口コミを起こそうかと考えがちであるが、しかし、「口コミを創造することではない(Word of mouthmarketing isn't about creatingword of mouth)」※3というのだ。これは工場で口コミを大量生産することはできない、というイメージを持つと納得できるだろう。
口コミとは人が行うものであり、口コミをしたいと思う気持ちが動いて、初めて行われる行為なのである。WOMMAによると、何もない状態からマーケターが口コミを創りだすことはできないが、世の中に発生している口コミをさらに増やすことはできる。それを学ぶことが口コミ・マーケティングだという。
※2 Word of Mouth Marketing Association(2007),“WOM101” Word of Mouth Marketing Associationのこと。本稿ではこの定義と解説をベースに内容を展開している。
※3 同上p.2より
マーケターの想像を超える口コミのメカニズム
人々の間で情報が伝播したりシェアされたりする口コミというメカニズムは、マーケターの想像を超えて広がるという点で魅力的だ。
しかし、口コミをマーケティング活用しようとする際、すべてを一括して「口コミ」と考えてしまうと全体像が見えなくなってしまう。つまり全部をまとめて考えてしまうから手をつけられなくなってしまうのだ。その点、WOMMAは口コミを2つに分けて解説している。この認識も重要で、今後の施策の参考になるので解説する。
WOMMAによれば口コミには2種類ある。「自然発生的な口コミ(原文:Organic WOM)」と、「喚起された口コミ(原文:AmplifiedWOM)」で、両者は明確に区別されている。前者は文字通り自然に生まれる口コミである。対して、後者はもっと積極的に、企業のマーケターが口コミを発生させる目的で行った施策により生まれる口コミである。そしてWOMMAによれば「口コミ・マーケティング」とは後者を指す。
以下はWOMMAによる概念整理と、それぞれの口コミを増やすための具体的な方法である。この分類を参考にすれば、今で曖昧だった口コミ施策への取り組みがより具体的にイメージできることだろう。