CRMの進化と本質
顧客情報基盤であるCRMは、セールスフォース・ドットコムのSalesforce CRMを代表とするクラウド型のプラットフォームの登場によって、顧客情報とつながることで利用価値を高めることができるアプリケーションとの連携が次々と生まれた。
顧客の情報を中心に、そこに商談や担当者や営業活動などが関連付けられて構成されるものがCRMだが、そこに名刺情報や帳票関連、プロジェクト管理や地図情報などのアプリケーションとの連携のエコシステムがつくられ、顧客の情報はさらに深くなり、顧客との関係性を構築する材料も増え、顧客からの収益を増大するための基盤として、より強い位置付けに進化した(図表2)。

ちなみによく、CRM・SFAという表現で1つにくくられることがある。私の考えでは、あくまで顧客を中心とした情報基盤というツールとしては、CRMとSFAは別々のものではなく同じデータベースを指しており、見ている視点によって呼び方が違うと考える。そういう意味では、「CRM」という顧客情報基盤データベースに、営業活動や商談情報など“顧客を中心とした情報”をひも付けていくことは共通で、その情報を、営業的な視点から活動状況や商談金額の把握、組織や個人の営業業績などのフォーキャスト(数値予測)などで活用する行為の際に、「SFA(営業支援ツール)」と呼ぶ、のではないだろうか。
その点で、一昔前のCRM/SFAは、営業マンがひたすら顧客の情報や自分の活動を入力し、営業マンが入力する情報以上のデータベースにはなりようのない“顧客カルテ”と“営業日報”というのが一般的なイメージだった。また、実際にそのようなツールの位置付けである利用者企業が多かったことも事実だ。
それが、様々なアプリケーションの連携によって、集まる情報の多さやバリエーションも、集まった情報の活かし方も、明らかに変わった。
そしてMAは、その顧客情報基盤と連携し価値を高めるアプリケーションの代表的な組み合わせである。
顧客がWebサイトに来訪しどのページを閲覧しているのか、その頻度はどのくらいなのか、どのような分野に関心が高いのか、こういった情報を顧客情報基盤のデータベースに加えることができるMAは、最強のインプット源となり、顧客の契約状況(既存顧客か見込顧客か)や役職や立場、営業の商談状況などを踏まえて、メール配信やWebサイトコンテンツの自動配信、またそういったシナリオの実施ができるMAは、最強のアウトプットの発信台となる。
CRMの進化は、こうしたアプリケーション連携・エコシステムによってインプットの質と量に変化を起こし、アウトプットの手段も精度を高めることができうるものとなった。
さらに、顧客に関わるあらゆる情報をCRMに集約していく傾向のなかで、マーケティングの成果や商談状況、営業活動やカスタマーサポートの応対など、CRM内の様々な情報をAIによって分析し、最適なマーケティングや営業活動のサジェスチョンを示してくれる日も近い。ただし、AIはあくまで存在する情報・データを踏まえた学習や導きだ。そこに情報がなければ活かせず、またユーザー自身がCRMを大いに活用しているからこそ、パターンなどの学習によって示唆ができることを忘れてはいけない。
マーケティングと営業の融合
マーケティング部門と営業部門の乖離は、今に始まったことではなく、今でも依然として距離感は当然あるままだ。しかし、MAとCRMが連携し情報プラットフォームが1つになることで、マーケティング部門と営業部門の繋がりが強化され、顧客に向けた施策においても必然的に歩み寄ってきているケースを多く見てきた。
最近話題となっているABM(アカウント・ベースド・マーケティング)も、マーケティングと営業が共同でターゲットを定めてアプローチをしていくものだが、MAとCRMが連携された顧客情報基盤のデータベースがあるからこそ実現できるものと考える。
この顧客情報基盤を駆使し成果を高めるためのポイントは、マーケティング部門は顧客のWeb行動を把握するためにCookieがひも付いた顧客(アクティブプロスペクト)を増やすための施策を実行し、営業部門は日々の営業活動や商談状況などの顧客に関連する情報をしっかりとインプットすること、そしてそのCRMとMAの情報を活かして、顧客へアプローチするシナリオを設計することだ。文字にすれば簡単でも実際に実践することは難しいことは充分にわかっているが、考え方としてはこれに尽きる。
完全なゴールがある訳ではなく継続的な施策実行と検証の連続だが、顧客に関連するデータをインプットしていくこととそれを駆使してアクションしていくことを常に意識して取り組みたい。
図表3は、MAとCRMの情報を組み合わせたシナリオの一例である。マーケティング“オートメーション”と言っても、シナリオのアクションはすべてが自動化でコミュニケーションできる訳ではない。顧客に向けたアクションは、営業から電話をすることもあり得るし顧客ランクによっては関連製品のセミナー案内を自動的にメールで配信することもあり得る。ポイントは、いかに顧客の属性情報や商談状況などを踏まえてシナリオを設計するかだ。

逆に言えば、スコアリングやWeb来訪やメールクリックなどの顧客のWeb行動だけで、シナリオ設計をすることは難しい。たとえば、自社のWebサイトにたくさん来訪してくれスコアが100点を超えた顧客がいたとしても、それが既存顧客なのか未取引顧客なのか、B製品顧客なのかC製品顧客なのか、決済者なのか担当者なのか、営業が商談中なのかアプローチをしていないのか、パートナーなのかエンドユーザーなのか、などの属性情報や営業活動情報がない限り、次のコンテンツや情報をどのように届けるべきかがわからない。
そういう意味では、MAの機能として挙げられるスコアリングもシナリオの自動化も、CRMと連動した情報がない限り有効には活用できない。また営業部門としては、CRMにこうした情報をしっかりとインプットすることで、より顧客をエンゲージするためのコンテンツや情報提供をマーケティングが実践してくれると理解し、CRMの活用がより促進されるきっかけになることも多い。
そしてそれと同時に、こういった顧客情報基盤をどう活かしどう成果を創出するかが、経営にとっても重要なテーマとなってきている。