地域の人を巻き込む仕組み作り
――企画が継続しているのは、伝承の仕組みを作るためですか。
地域創生が盛り上がった時期に多かったのが、動画を作って、公開したら満足して終わってしまうことでした。本当は公開してからが始まりで、観光が目的ならば、観光客に来てもらうための仕組みづくりを議論していかなくてはならない。それが全くないことに違和感がありました。せっかくなら、新しい物語が始まり、地域の人が巻き込まれていき、その人たちに楽しんでもらいたい。地域が主体性を持つプロジェクトにしたかったんです。
大分県別府市のPR施策として知られる「遊~園地」計画は、最初からクラウドファンディングを使うと決めていたわけではありません。プロジェクトの中で出てきた問題を、その都度解決しながらやってきただけですが、問題が発生するたびに解決のモチベーションが生まれ、仲間が増えていき、最終的には約1,200人の市民ボランティアが参加するところまで輪が広がりました。
「森の木琴」も、最初自動演奏装置の制作を依頼されたところからスタートしました。装置を作るのはそこまで造作もなかったのですが、撮影時期が真冬の2月で、幻想的な森の奥という場所がなかなか見つからず、やっとの思いで見つけたのが、自分が生まれ育った町でした。その後、作った装置が美術館の展示になり、子供達が遊びに来てくれて、地域創生にも新しい発展方法があることを実感しました。
――最後に、音の使い方についてのアドバイスや今後の展望について教えてください。
音の使い方に限ったことではないのですが、音楽を拡張するにあたり根付いた考え方のようなものがあります。すべての物事には“側面がある”ということです。新しいものには古いもの、地域に根づいた視点には観光客の視点など、心の中に“視点を切り替えるスイッチ”を育み、ものごとを多角的に分析することで、既存のものの利活用からまだまだイノベーションを起こすことができます。追体験と新体験を組み合わせる“編集力”とでも言いましょうか。モノやコトバに溺れそうになりがちな現代においてこの力がヒントとなるような気がしています。