ブランドのDNAの汎用化には技術が不可欠
――なるほど。それは、たとえば新しい技術を店舗に導入する際にも、同じことが言えそうです。
まさに、そうですね。現場には、様々なバックグラウンドのスタッフがいます。当然、テクノロジーに関するリテラシーも違う。だからそこは、伝わる形にしないといけないですよね。
若手社員を交えて3年前に策定した長期経営ビジョン「NEWBEGINNINGS 2025」では、3つのキーワードとして「ひと・健康・テクノロジー」を掲げました。ここでは順番がとても大事で、ひとがひとらしくサービスをすることが大前提です。そこで提供するのが健康にこだわったメニューであり、それを実現するのがテクノロジーだと、そういう流れなんですね。だからうちは券売機も入れていないし、ロボットレストランもやらないでしょう。
元々、什器ひとつにしても、現場が女性中心になってきた今では什器の背が高すぎるので変えています。その延長でテクノロジーも人を中心に考え、たとえばシニアの方々も活躍できるんですが機械の文字が見づらいので、音声認識のオペレーションを検討中です。また、2018年10月に吉野家の築地一号店を閉店する運びになったのですが、同店の店長は1日3食を食べにくる河岸の職人さん2,000人分の“いつもの”メニューを覚えていたんです。それこそ吉野家の「ひと」による技術とサービスの最高峰とも言えますが、1,200店舗に展開するのは無理がある。そこで、もしテクノロジーで個々人やその健康状態を見分けられたら、最適なメニュー提案もできそうです。吉野家が培った技術を全世界に応用するには、テクノロジーは不可欠です。温故知新ですね。
テクノロジーに投資するのは、人を大事にするからこそですし、それによって未来に存続するブランドになれる。それをわかってもらうために、僕はこの考えを1本の映像にまとめました。お子さんがいる方もシニアの方も、こんなふうに働きやすくなると紹介し、やる気のある海外のスタッフに出てもらって、日本も負けていられないぞと思ってもらえるように。

スタッフ、顧客、制作陣…共創の輪を広げていく
――映像だと、言葉だけのビジョンを提示するよりもずっと理解しやすいですね。
これは僕の造語ですが、皆の未来に進むべき目標を明確にして組織で共有する手段を「ビジョンクリエイティブ」と言っています。夢で止まっているレベルがモノクロだとすると、未来がカラーになるまで考えつくすのです。社内の商品・サービスを使って未来の顧客の笑顔が見えるまで具体化できればその時点で人・モノ・カネまで明確になっている。そして自分たちの過去の歴史からDNAを見つけ、未来の理想像をカラーで精緻に描いて、それをつなぐ。そうすると、行動計画が浮かび上がるんです。そうして初めて、受け手であるスタッフに伝わり、皆が同じ気持ちで動き出せます。このようなことから映像を作りました。やはり社長からのメッセージとして「皆さんのためにテクノロジーを使う」としっかり映像で伝えていくことは大事ですね。
――経営とスタッフの意識統一も、共創の第一歩ですね。最後に、吉野家には「牛丼は吉野家」と決めているファンの方も多いと聞きますので、ファンとの共創に対してお考えをうかがえますか?
たとえば最近では商品発表会に一般の方も来ていただき、座談会で社長に意見を言ってもらったりしています。そこから商品開発につながった例もあるんです。アプリもあるので、今後はそうしたファンマーケティングを仕組み化していければと思います。
また、お客様に私どものことを伝えるために重要な広告クリエイティブも、できるだけ吉野家ファンの皆さんと作りたい。ありがたいことに、吉野家が好きだからという理由でオファーを受けてくださるクリエイターの方々もいます。それも「うまい、やすい、はやい」という価値を守り続けてきた賜物だと思うので、今後も守るべき価値をぶらさずに、ファンの輪を広げていけたらと考えています。