※本記事は、2018年8月25日刊行の定期誌『MarkeZine』32号に掲載したものです。
Amazon Goの世界は目の前に
ハンズラボ株式会社代表取締役社長 長谷川 秀樹(はせがわ・ひでき)氏
1994年、アクセンチュアに入社後、国内外の小売業の業務改革、コスト削減、マーケティング支援などに従事。2008年、東急ハンズに入社後、情報システム部門、物流部門、通販事業の責任者として改革を実施。その後、オムニチャネル推進の責任者となり、東急ハンズアプリでは、次世代のお買い物体験への変革を推進している。2011年には同社の執行役員に昇進し、2013年、ハンズラボを立ち上げ、代表取締役社長に就任(東急ハンズの執行役員と兼任)。
――2018年1月、シアトルに無人コンビニAmazon Goの1号店がオープンしました。日本でも、セルフレジの導入や決済方法の多様化など、テクノロジーを活用して購買体験を変化させる動きが活発化しています。長谷川さんから見た、小売りとテクノロジーの関係についてうかがえますか。
まさに今が、小売業界のあり方そのものを考え直す時期だと捉えています。小売業界には、これまでに2回の転換期がありました。まず1回目は、インターネットが登場しECが始まったとき。そして2回目の転換期はスマホの登場です。これらの転換期に、私たちももっと踏み込んでおけば良かったと今でも反省しています。特にスマホに対しては、PCの他にECのチャネルがもう一つ増えたという感覚しかなかったのです。実施されている企業もありますが、GPSを用いて近くの店舗から情報発信を行うなど、ECだけでないスマホの新しい使い方にもっと取り組むべきでした。そして3回目の転換期となる今、無人店舗で商品を選び、そのまま店を出れば決済が済むというSF映画のような世界が実現しようとしているのです。
――Amazon Goが一般化するのは、まだ遠い未来のような気もするのですが……、既に取り組みが進んでいるということですか。
Amazon Go as a Service、つまりAmazon Goのようなサービスを確立しているテクノロジーベンダーは、既に動いています。思っている以上に早く、その体験をする日が来ると私は考えています。たとえば、Googleが出資・資本業務提携をした中国EC大手の一つである京東集団は、無人のコンビニを展開しています。専用の出入口ゲートがあり、店内に設置したカメラがお客様の顔認証を行います。手に取った商品を判別するのは、棚の重量センサー。そして決済は、カードか現金を選べるという仕組みです。まだ1度に認証できる人数の上限があるそうですが、テクノロジーの進化とともに改善されていくでしょう。
無人店舗はコストがかかると懸念されていますが、特殊なカメラを使っているわけではありません。コンビニ程度の広さであれば、死角がないように設置しても数十個で対応できます。仮にそれが1,000万円かかったとしても、人件費と比べると大した額ではない。システムですから5年程度は使用できますし、メンテナンスを考えても人件費以上の投資になると考えられます。さらに、お客様の行動から様々なことが見えてきます。手に取ったけれど、5秒ほど見つめて棚に戻してしまったという行動からは、値段か原材料か、どこを見ていたかを追えば買わなかった理由がわかりますし、普段どのあたりを見て買い物をしているのかというデータも取得できるんです。