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MarkeZine Day 2025 Retail

定期誌『MarkeZine』特集

テクノロジーはあくまで手段 求められるのはビジネスの再定義

中国の小売りECが成功している理由

――これまで知り得なかった顧客データを活用できるようになると。まさに大きな転換期ですね。そこで長谷川さんは、「小売業のあり方を考える必要がある」とのことですが、それはなぜでしょうか。

 僕らはこれまで、スマホでの集客やオムニチャネル、EC、O2Oとオンライン側をいかに活用していくかという視点のみで考えてきました。リアル店舗の設計は手つかずのままだったのです。しかし、今後はリテールの根本から考えを変えなければなりません。それに気づいたのは、中国の小売りを視察したときです。その変革への本気さに衝撃を受けました。

 まずアリババグループの生鮮食品スーパー「盒馬鮮生」。ここは、店舗より半径3キロメートル地点からの注文であれば、30分以内で届けるというサービスを提供しています。既に、EC売上比率が50%になっているんですよね。その理由は、店内の導線設計にありました。縦に長い店舗の天井に設置されているのは、レールです。ネットからの注文をピッキングしたバッグをそこへ吊るすと、バックヤードへ運ばれていき、配送されるという仕組みになっています。これにより、ピッキング担当者がバックヤードと店内を行き来する手間が省けます。また、ピッキングしやすいようにレイアウトも考えられており、スピーディな発送が実現できているんです。

 もちろん、このようなサービスは「アリババだからできるんだ」と思う方も多いのではないでしょうか。

 もう一つ、老舗の小売企業が運営しているRISOというスーパーの事例を紹介します。同社も、アリババのように、EC化率を50%まで高めるために様々な取り組みをしています。視察をする前、アリババと同様のシステムやレイアウトなのだろうと予想していました。しかし店内を見ると、生鮮食品が豊富な、店舗滞留型の設計となっており、オンライン基軸の要素は見当たらないのです。

――日本のスーパーと変わらないのに、EC化率を引き上げようとしているんですか。

 実は、仕入れと粗利率の設定にECが成功している要因がありました。日本のスーパーでは、物流が大きなコストとなっており、ECからのオーダーが増えれば増えるほど、赤字になるといわれています。対してRISOでは、商品の値入れが再設計されており、物流にかかるコスト分をある程度乗せた粗利を設定しているんです。すると値段が高いように見えますが、RISOの商品はインポート物でオーガニックが多い。EC上で比較購買をされない商品や、他店にないものをマーチャンダイジングしているんですよ。

 アリババもRISOも、「オフラインリテールごと再設計しなければ、ECに成功はない」と気づいて、実行したのです。僕が知る範囲にはなりますが、従来のビジネスモデルを組み直した国内の小売りは、まだ存在していないと思いますね。東急ハンズ含め、デジタルを用いた集客には取り組んできましたが、オフラインのビジネスや店舗オペレーションのあり方を変えてこなかった。つまり、リアル店舗はそのままで、ECなどをアドオンした設計になっていました。第3の小売り転換期からは、一見するとテクノロジーと関係がないようなエリアまでも変化をしなければ、勝てない時代になっていくんです。

リアルリテール中心主義からの脱却

――テクノロジーは手段でしかなく、根本のビジネスごと変えなくては成長しない。発想の転換が必要なんですね。

 そもそも、ECとはこういうものだという思い込みから捨てないといけません。たとえば東急ハンズでは、ECで買った商品を店舗で受け取ることができます。お客様の立場で考えると、自分の行動範囲にある店舗を選んでいるわけですから、ECではなくて、店舗で購買するプレオーダーであり、お取り置きをしているとも考えられますよね。

 ファッションもECが進みましたが、5着購入して3着返品があったら、EC担当者は「困ったな」と感じるでしょう。しかしリアル店舗で5着試着して、2着だけ買うことはよくあります。購入数は同じなのに、ここまで印象に差があるならば、自宅で試着するか店舗で試着するかの違いを前提とした再設計が必要でしょう。冷静になると、自宅で試着したほうが、自分のクローゼットの服と合わせられるので自宅の方がいいに決まっているんですよね。ECからの購入は自宅での試着であるというように考え、返品を前提として、粗利の割合はどのくらいがいいかと物流込みで再設計してみるんです。それをもとに、マーケターは商品開発を行う。配送料が5着も10着も同じならば、試着数を増やすために10着まで選べるパッケージを作ろうというように考えることができます。

――ファッションの領域だと、サブスクリプションモデルを提供する企業も増えてきましたね。

 ファッションのサブスクリプションは、アメリカのサービスがよくできていますね。お客様に好きなファッションの写真を選択させ、感覚的な好みを把握し、返品されてきたものをAIが覚えていく。そして好みの精度を上げて洋服を送れば、購入頻度が上がる。さらに、価格で比較購買をされないような洋服を揃えています。サブスクリプションは、「1着ずつ買ったほうがいいのでは?」と思われてしまうと崩壊するモデルです。そのため、料金設計に工夫が必要です。固定の基本料金に加えて、返品数や購入数に応じてオプション料金が変動する設計をしているサービスもあります。「返品するより、買ったほうがお得だな」と心理的に思うような価格設定にしているんです。僕ら自身も、テクノロジーを使って既存ビジネスの外側を変えるのではなく、リアルリテール中心主義から変えなければいけないと思います。

CtoC、中古市場の拡大にチャンスあり

――小売りをとりまく環境変化のひとつに、CtoCや中古市場の拡大があります。新品マーケットに影響が出るのではないでしょうか。

 新品と中古のマーケットが存在する代表に、自動車と住宅がありましたが、メルカリの登場により対象が広がったように感じます。おっしゃる通り新品マーケットの縮小を危惧する声もありますが、「中古で購入されることを見越して、新品を買う」というように、新品に一層の価値が生まれる場合もあります。

 そこで、新品と中古を分けて考えるのを止めてみたらどうだろうと考えるんです。キャンプやゴルフなど、一式揃えるのは値が張るけれど、ちょっと挑戦してみたい趣味ってありますよね。仮にですが、1ヵ月以内であれば半額で引き取りますというプランで販売してみるんです。まず新品マーケットに対し、50,000円で販売する。そして1ヵ月以内に買い取り依頼があっても、中古ではなく25,000円で仕入れたと考え、ほぼ新品を30,000円で中古マーケットに売るというイメージです。すると、お客様には半額で買うようなものだと感じられますし、一方で中古だけど流行物だから買ってみようかなという動機づけにもなる。新品と中古のハイブリッドのようなマーケットを生みだす小売業が出てきても、いいんじゃないかなと思いますね。

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接客に適しているのは人かテクノロジーか

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この記事の著者

マチコマキ(マチコマキ)

広告営業&WEBディレクター出身のビジネスライター。専門は、BtoBプロダクトの導入事例や、広告、デジタルマーケティング。オウンドメディア編集長業務、コンテンツマーケティング支援やUXライティングなど、文章にまつわる仕事に幅広く関わる。ポートフォリオはこちらをご参考ください。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

道上 飛翔(編集部)(ミチカミ ツバサ)

1991年生まれ。法政大学社会学部を2014年に卒業後、インターネット専業広告代理店へ入社し営業業務を行う。アドテクノロジーへの知的好奇心から読んでいたMarkeZineをきっかけに、2015年4月に翔泳社へ入社。7月よりMarkeZine編集部にジョインし、下っ端編集者として日々修業した結果、2020年4月より副...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2018/08/29 17:01 https://markezine.jp/article/detail/29045

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