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自動運転のインパクト マーケティングはどう変わるのか

IT企業が参入する狙い

 自動運転によって生まれるこうした「自由な時間=可処分時間」は、多くの企業にとって重要なマーケティング機会になると考えられます。そして、その時間にどういったアプローチを行うべきかが、今後のマーケティング戦略において、新たな視点として加わってくることになります。

 たとえば、前述の通り、電車通勤者やバス通勤者に対する定番のアプローチ手法として、中吊り広告や駅構内の広告、さらには、移動時間に読む雑誌や新聞といった媒体に露出するという手法があります。そして、近年では、電車内などでのスマートフォンを利用する時間が増えたことで、モバイル端末上で露出を図るインターネット広告が急速に伸びてきています。

 これと同様に、ただ乗っているだけになる自動車内も、電車と同じ状況になると考えるのが自然な流れで、車載端末やスマートフォンのディスプレイを入口としたアプローチが、重要な役割を担うことになるのは明白です。

 さらに最近では、AppleのSiriやAmazonのAlexaといった音声アシスタントが市場を拡大していますが、こうした音声を介したインターフェイスを用いれば、ディスプレイに依存しない形で接触を図ることも可能になるはずです。さらに音声という面では、ラジオや音楽サービスに連携したデジタル・オーディオ・アド・ネットワークも既にサービスを開始しており、ここ日本でもFMラジオ局「TOKYOFM」が米国のサービスを導入しており、音声広告を出稿できる環境は整いつつあります。

 こうした、可処分時間があれば広告で接触できる……というわかりやすいアプローチだけでなく、もう一つ、移動手段だからこそ持ち得る「ロケーション(自分のクルマがいる所在地)情報」という要素を忘れてはいけません。

 ソーシャル時代以降のインターネット広告に求められているのは、いかに精度の高いセグメントを行い、効率的かつ効果的に広告主の目的を達成するかという視点です。年齢や性別、興味関心といったこれまでのセグメント領域に、移動によって収集されるロケーションデータが掛け合わせられるようになります。

 毎日の通勤ルート内にある、スーパーマーケットやコンビニ、ガソリンスタンド等、ローカルビジネスを展開する広告主にとって、直接的に店舗への集客を図ることが、より高い精度で実現できるようになるでしょう。通勤通学という日常に深く入り込むことができれば、よりユーザーの行動にダイレクトにつなげることが期待できます。たとえば、自宅の音声アシスタントに切らしている洗剤のことを伝えておくと、帰宅時に立ち寄り地点としてドラッグストアが自動的に設定されている、といったことも不可能ではありません。

 IT企業が自動運転に参入する理由として、こうした生活者の「生」のデータを収集すること。そして、そのデータを元に新たな事業を創出するという目的が挙げられます。当然現状でもスマートフォン等で位置情報の取得は可能ですが、自動運転を実現させるために利用される位置情報であれば、より精密で高精度なものになることは間違いありません。

 また、自動運転のシステムが稼働することで、移動中も常時位置情報をトラッキングすることになりますので、継ぎ目のない行動履歴が蓄積されるわけです。リアルな行動履歴を、既に持っているオンライン上のデータと連携させることで、オンラインと現実世界がシームレスにつながるサービスの提供も可能になるのです。

自動運転が実現する未来に備え、グランドデザインを描く

 もちろん、こうしたサービスを実現させるためには、まだまだ多くの課題が残されています。

 現状、最大の課題となっているのが、人間が操作に一切介在しない状態における自動運転の信頼性です。もちろん、事故を完全に無くすことはできないと思いますが、限りなくゼロにすることは求められるでしょう。

 既に報道されているように、2018年3月にUberとテスラがそれぞれ死亡事故を起こしています。Uberのケースは、自動運転による初めての死亡事故であったため、世界中で大きく報道されました。まだまだ走行台数が少ない中で、立て続けに事故が発生している状況を考えると、複雑な交通環境の現実社会で安心して利用できる自動運転の仕組みが確立するのは、もう少し先になるのではないかと思います。

 そして、もう一つの課題として、利用できるデータが制限されるかもしれないという法整備が挙げられます。自動運転によって蓄積されたロケーションデータが既存のデータと紐付くことで個人を特定できるようになると、法的な規制の対象となる可能性が生まれてくると考えられます。個人情報は非常にデリケートな問題であり、近年その利用を巡って様々な問題も生まれていることから、今後より厳しくなることが予想されます。そうなると、データの連携や情報収集に制限が課せられることは間違いないでしょう。

 このような大きな課題があるとはいえ、自動運転が実現する未来の社会においては、通勤や通学に充てられている可処分時間が、大きなマーケティングの機会になることは間違いないでしょう。こうした増大する接触機会をどう活用するのか、そして、パーソナルなロケーションに紐付いたマーケティング戦略をどう組み上げていくのか、そういったグランドデザインを描きはじめておくことが、今求められているのかもしれません。

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この記事の著者

山田 佳祐(ヤマダ ケイスケ)

株式会社アクトゼロ 取締役副社長
立命館大学卒業後、テレビ東京ブロードバンド(現・テレビ東京コミュニケーションズ)にて、デジタルコンテンツのプロデュースを担当。海外有名キャラクターや国内アニメ版権等のコンテンツに携わる。2010年に株式会社アクトゼロへ加わり、2015年より現職。企業や官公庁のデジタルマーケティング戦...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2018/08/24 14:00 https://markezine.jp/article/detail/29046

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