定期誌を通して人や企業の背景を知れるのがおもしろい
――最初にうかがいたいのは、定期誌『MarkeZine』をどんなふうに読まれているかということです。毎月1冊をお届けしていますが、どのコーナーに注目されていますか?
福田:私は前職の頃から読んでいて、特に巻頭や特集が好きですね。私自身もそうですが、他の購読者の方にとっても、取材されているクライアントや競合などがどんなことを考えているのかが気になるのではと思います。もちろん、話されている皆さんの熱い想いを知ることができるのが楽しいというのが一番で、その人や企業の考え方・背景を知れるのがおもしろいです。
原:私は統合マーケティング部に異動してから読み始めたんですが、福田と同じく巻頭と特集のインタビューを楽しみにしています。内容としてもちょうどいいんですよ。元々事業部で、CRMやメルマガ施策をやってきたとはいえ広告やデジタルマーケティングについては知らないことが多かったので、学ぶことがたくさんあります。現場の業務に近い内容が多いのがありがたいですね。あと、取材されている皆さんはマーケティングの最前線で仕事をしていると思いますが、非常に楽しそうな雰囲気でわくわくします。
福田:読むとデジタルマーケティングへの意識が高まるのは事実ですが、一方で読みっぱなしになってしまいがちなので、何かフォローするような施策をしてもらえると嬉しいです。その一つが購読者向けのイベントだと思いますが、定期誌で関心を持った領域についてのイベントなら絶対参加したいですよね。
――我々としても定期誌をお届けしたあとのフォローは課題に感じています。Webに定期誌の記事を転載し始めたのは、まずは最新号ができ上がったことを知ってもらおうという施策の一環でした。今後も、購読していただいている方に向けた情報発信を積極的にしていこうと考えています。
イベントでの出会いをきっかけにコラボが実現
――御社では定期誌の購読者向けイベント(現在はPremium Seminarと改題)を通じて縁がつながったヤッホーブルーイングとのコラボ企画を実現されました。そうしたつながりをもっとサポートするにはどうすればいいのかをうかがいたいと思っています。
お二人がお越しになったのは、2018年2月に開催した「読者限定イベント vol.5」でした。「顧客エンゲージメントの高め方~ファンを作りコミュニティで広める~」をテーマに、ヤッホーブルーイングの佐藤潤さんとZebra Japanの柘野英樹さんに登壇いただきましたが、これはどういうきっかけで参加されることになったのでしょうか。
福田:佐藤さんと柘野さんの記事が掲載されたのは第24号(2017年12月号)でしたよね。実は定期誌を読むまで「よなよなエール」を知らなかったんですが、記事がとてもおもしろかったんです。柘野さんのお話も興味深くて、ファンを増やす前に社員の熱狂度が大事なんだと強く印象づけられました。
しかもそのあと、イベント開催の1週間ほど前に高橋遼さんの『熱狂顧客戦略』(2018年、翔泳社)も発売されて、ファンベース・マーケティングに対する気持ちが非常に高まっていたんです。市場の盛り上がりと自分の関心がちょうどマッチしていたときに開催されたイベントでしたね。
――購読1口につき2名まで参加できるようにしたんですが、それはいかがでしたか?
福田:私は上司である原を誘ったんですが、部下と上司で参加できたのがよかったです。案件の実施方針を決定する人が参加しないと、イベントが面白くてその場で企画を思いついても、なかなか実現には至らないと思うんです。実際、二人で参加したことで、ヤッホーブルーイングさんとのコラボにつながりました。
原:ファンベース・マーケティングに関心がある中で、イベントへの参加はいろんな施策を企画する大きなきっかけとなりましたね。イベントでは登壇したお二人が、ユーザーはもちろん、社員にも会社や商品のことを好きになってもらわないといけないとお話しされていたのが印象的でした。コラボに至った理由の一つに私自身が「よなよなエール」を好きだというのもありましたが、そういう意味でもファンを作るというのは大事ですよね(笑)。
――コラボが実現するまでどれくらいの期間があったんでしょうか。
原:2月にイベントがあり、具体的な話が進み始めたのは4月後半からでした。佐藤さんは長野にいらっしゃるんですが、急用で東京に来られなくなり、FaceTimeでミーティングすることになったという思い出もあります。最初の打ち合わせからはスムーズに進んでいきましたね。
――ヤッホーブルーイング側にはどういう点にメリットがあったとお考えですか?
原:弊社のクレジットカードを持っているお客さまと先方のターゲットに親和性があると捉えていただけたのだと思います。金融とビールという異色のコラボですが、考えてみると、クレジットカードを持っている方がビールを飲んでいるというのは全然不思議ではないですよね。
――ヤッホーブルーイングの醸造所を訪ねるという記事が掲載されたのは、御社のオウンドメディア「ヒトトキ」でした。読者にはビール好きがいるでしょうから、記事を読んだ方は三井住友カードに親近感を持ってくれそうです。
福田:弊社としてはまさにそれが狙いでした。「ヒトトキ」は今年4月にリリースしたオウンドメディアで、サイトでWeb明細を見たあとに立ち寄ってもらいたい場所として作りました。当たり前かもしれませんが、それまでは多くのユーザーがWeb明細を見るだけでサイトを閉じてしまっていたんです。でも、せっかく来ていただいたなら滞在時間を長くしてブランドに親しんでもらいと。
その考えに対して、ヤッホーブルーイングさんのコンセプトは非常にマッチしていました。ですので、「ヒトトキ」に記事を掲載することに社内で異論はありませんでした。コラボが実現したのは、社内でも「ヒトトキ」を盛り上げていきたいと考えていたのが大きかったですね。
コラボをきっかけに課題を解決する
――反響はどうだったのでしょうか。
福田:おかげさまで上々で、Web明細ページに掲載していた誘導バナーを「よなよなエール」の記事仕様にしたらCTRが3倍以上になりました。PVも10,000以上という人気ぶりです。
原:堅いイメージがある三井住友カードが「よなよなエール」とコラボをしたということで、ビール好きに親近感を持ってもらえたなら本当に嬉しいですね。
福田:元々はヤッホーブルーイングさんが開催している超宴のようなイベントをやりたいと思っていました。ですが、超宴は熱狂的なファンがいてこそですから、弊社はまずユーザーの皆さんにファンになってもらわないといけません。ファンになってもらうには、なぜ三井住友カードを好きになるのかという理由を見つけないといけませんよね。
そしてそれ以前に、イベントで柘野さんがおっしゃっていたように、まずは社員がファンになる必要があります。実は弊社はそこに課題があって、なぜ三井住友カードを使ってもらえているのか、社員が答えに迷ってしまう状態なんです。今はそこから取り組んでいる最中です。
原:中期経営計画でお客様のLTVを最大化することを目標に掲げました。そのためには目先の利益ではなく、顧客視点になり、なぜ弊社のサービスが好きなのか、どうしたら好きになってもらえるのかを突き詰めなければなりません。それは今、私と福田の最大のミッションなんです。
部署によっては売上を追わないといけないんですが、将来的に三井住友カードを使い続けてもらえるファンを見つけて増やしていかないといけないと、社内に発信を繰り返しています。要するに、インナーブランディングですよね。ヤッホーブルーイングさんはそこができ上がっているなと改めて思います。
福田:超宴は輝いて見えますが、そこに到達するまでにステップがあることを実感しています。ファンベース・マーケティングを表層的に捉えると「イベントをやればいい」と考えがちですが、ようやく深掘りして考えられるようになってきました。
原:社内で勉強会をしていますし、社内報でも福田がよく登場してファンベース・マーケティングについて語っています(笑)。いきなりファンイベントをやるのではなく、そういうところからやっていかないとダメですよね。
異業種だからこそヒントをもらえる
――編集部では定期誌を読んだあとにアウトプットしていただくことも大切だと考えています。購読者同士で情報共有をする場をもっと設けていこうと考えているんですが、それについてはいかがでしょうか。
原:アウトプットの場はほしいですね。購読者同士で知り合うと、知見の共有はもちろん、コラボや新事業につながる可能性はあると思います。ただ、座談会のような形になるとインプットのほうが多くなりそうです。アウトプットのいいところは頭の中を整理できるところにありますよね。
福田:他の購読者の方がどのようなアウトプットをされているのかは気になります。購読後のアクションについて、あまりお話や事例を聞いたことがないというのが正直なところです。
イベントに参加するだけなら、マーケティングに関するイベントやセミナーは他にもあります。そちらと比較して、なぜMarkeZineのイベントなのか、という部分が重要かと思いました。外に出てインプットしに行く人自体が少ないような気もしますし。
原:我々二人は積極的にイベントに参加しています。個人的には、誰もがもっと外に出るべきだとも思います。様々な方と出会えて、弊社で行ったようなコラボ企画ができるかもしれませんから。
――アウトプットの前に、まずはもっとインプットしてもらいたいということですね。
福田:イベントに行くと普段なら会えない有識者の方と出会えますよね。たとえば、定期誌のイベントでも登壇されていた音部大輔さんのようなマーケティング業界で有名な方もいらっしゃいます。社内にいたらそういう方と知り合うチャンスはないですからね。とはいえ、イベントに登壇されていても自分から話しに行けるかどうかは別ですが……。
――やはり名刺交換だけで終わってしまうと、その先につながるものがないですよね。特に相手が毎日いろんな人と顔を合わせる方だと、名前と顔を覚えてもらうのも難しいです。御社の場合は一歩踏み込んでコラボを実現されましたが、それができる人とできない人の違いは何でしょうか。
福田:熱意ですね。会社に対する愛と言ってもいいと思います。それがあると行動力も高まるでしょう。僕のファンベース・マーケティングに対するモチベーションも実はそこにあって、いいサービスを提供しているんだから他の社員にもそれを認識してほしいと考えています。
そうやって会社への熱が高まれば、行動に移しやすくなると思います。それに、話しかけるのは勇気より危機感が必要なんですよ。誰も現状維持で会社が成長していくとは考えていないでしょうし、だとするとイベント登壇者と話して新しいアイデアのきっかけを掴むべきですよね。
原:イベントなどで有名な方とお話しするときって、何を話したとしても相手は多くの方と話されているので、印象に残ることって少ないと思うんですよ。だから、無邪気に向かっていったほうが勝ちかなと(笑)。
――たしかにそうかもしれません(笑)。
原:金融業界向けのイベントもあるんですが、知っている業界の話をされても仕方ないと思うときはあります。なので、私としては全然知らない業界の、初めてお聞きするような企業の方と交流したいんですよね。新しいアイデアやヒントはそういう異業種の方のお話を聞くことで得られるものだと考えています。異業種の方が登壇するイベントには行きたがらない人は、自分には関係ないと思い込んでしまっているのかもしれませんね。
福田:定期誌も、自分のいる業界や関係する仕事に関する記事しか読まない人がいるんですよ。
原:あえて違う業界の方の記事を読んだり話を聞いたりすることがおもしろいので、ぜひ「異業種からヒントをもらおう」みたいなメッセージを発信してもらえるといいかなと思います(笑)。
――それはぜひ使わせていただきます。実際、マーケティングはどんな業界でも必要なことなので、定期誌で取材させていただく企業も多種多様です。自社と関係ないと思われてしまうのはもったいないですし、原さんがおっしゃるように新しいアイデアは他の業界にあるかもしれません。
原さんと福田さん、今回はインタビューに応えていただいてありがとうございました。定期誌『MarkeZine』では今後も購読者の方に向けて役に立つサービスや情報を提供していますので、どうぞよろしくお願いいたします。