流通企業・CPG企業は「新規顧客への再投資」ができているか
2015年頃から、ウォルマートは実店鋪の匿名訪問に依存しない、オンラインに登録(同意:コンセント)してもらえる「新規顧客」のパイプを作る土台として、それに合わせたバックオフィスのIT投資と物流網のIT化に投資をシフトさせて準備していた。今回の西友の件も今始まった事ではなく、数年前から想定された流れなのだ。
ウォルマートに倣い、旧来の流通企業やCPG企業は、「匿名の既存顧客」との関係は維持努力を行いつつも、一方で、「ゼロから」のデジタル・ネイティブ(デジタル起点)な新規顧客とのD2Cによるパイプ関係作りへの事業シフトが必須だろう(図表1)。

投資予算があるならば、新規店舗ではなくそれを新規顧客(新規パイプ)に対して多くを割くのが至近の方程式である。あるいは既存顧客向けの広告費が最適化により「浮いた」ならば、長期的に累積計画を作り、D2Cへの再投資へ向ける。
この「デジタル・ネイティブなパイプ作り」とは、自社でゼロからのオンライン上での顧客獲得をコツコツと重ねるだけが方法ではない。むしろ急務な競争事項であるからこそ、ウォルマートのようにM&Aが視野に入る。D2Cのスタートアップ企業への投資は、社内起業を開始するのに比べ、目利きから育成まで難易度が高まるので相当な覚悟が必要だ。
自社にとっての「未来の資産」は何か
西友に限らず日本の流通企業における経営の大部分が、このファネル頼み(店頭サービス強化でのトラフィック頼み)からいまだに抜け出せていない。デジタルシフトの見地からは既存店鋪に「再投資し続ける価値」は薄まっている。
一方でウォルマートは今年5月に、インドのEコマース大手Flipkart(フリップカート)を約1兆8千億円(約160億ドル)という巨額で買収することを発表している。これもインド市場でのD2C顧客を有料で買い取った、と考えられる。ウォルマートはテクノロジー経由でつながる未来の買い物客層を、「世界の成長市場」から獲得し始めたのだ。
ちなみに西友を売却した場合、見積もりは3,000億円~5,000億円と報じられていた。参考までにウォルマートが買収したD2Cの代表格であるメンズ・ファッションの「BONOBOS」が3.1億ドル(約340億円)だったので、その10~15社分だ。
たとえばあなたが3,000億円持っていたとしたら、「西友ネットワーク」を1社買うだろうか、それとも「BONOBOS級のD2C企業」を10~15社買うだろうか。あるいは成熟市場(日本)で「匿名顧客」を持つ実店舗(西友)を3社分ほど手放し、成長するインド市場においてオンラインでつながる顧客を有するFlipkartを1社手に入れるか。その答えから、自ずと進む道は見えるだろう。
※本記事では、1ドル=110円で換算し、区切りの良い数字に四捨五入している。
本コラムはデジタルインテリジェンス発行の『DI. MAD MAN Report』の一部を再編集して掲載しています。本編ご購読希望の方は、こちらをご覧ください。