※本記事は、2018年9月25日刊行の定期誌『MarkeZine』33号に掲載したものです。
アジリティで流行をつかむ
株式会社電通CDC プランナー・イラストレーター・コピーライター 尾上永晃氏
2009年入社。デジタルを軸に、複数のメディアを組み合わせたキャンペーンを得意とする。直近では、スクウェア・エニックス「ドラクエモンスターズ」シリーズのテレビCMを手がけ、ウェブで話題に。2018年カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル(カンヌライオンズ)のSocial&Influencer領域の現地審査員として参加した。
――デジタルキャンペーンを考えるとき、大切にしていることを教えてください。
アジリティ(俊敏性)ですね。Twitterの登場で、消費者の興味がパッと生まれては、パッと消えていくという流れが出てきました。そこから自然と、僕はネット上に浮かび上がるその瞬間的な興味をキャッチアップするようになったんです。
具体的には、Twitterを観察することで、人が何に反応するかという傾向を見ています。また、流行りそうなキーワードに関しては、大きな時代の流れや社会性をともなっているかどうかも気にしています。仕掛けるタイミングは、早すぎても遅すぎてもダメです。対象に向けられた、消費者の感情がじわじわと膨らんで、弾けそうという手前で仕掛けられるか。その時流を踏まえて「こういったアクションを取ると、ユーザーはこんな反応をするだろう」というシミュレーションを行います。
人間は「あなたって、こうですよね」と言われて、その指摘が当たっていると「この人、自分のことをわかってくれているな」と信頼してくれるものです。そのようなコミュニケーションを考えることが大事だなと思います。
――デジタルキャンペーンで怖いのが、炎上だと思うのですが、心配になることはありませんか。
炎上しないよう、事前に対策を打つ設計を心がけているので、心配したことはありません。たとえば「日清チキンラーメン・アクマのキムラー味」のキャンペーンでは、商品キャラクターのひよこちゃんが、悪魔のような黒ひよこちゃんに変化してしまうというテレビCMを作りました。
人気者で良い子のひよこちゃんとのギャップがおもしろいポイントですが、驚くファンもいるでしょうし、説明が必要です。そこで、キャンペーンを行う前から「やってられっか!」や「ひよこにチキンラーメンを宣伝させるなんてどうにかしてる」と公式アカウントでツイートし、事前に話題化しました。公式サイト上では「良い子辞めます」という辞表を掲載し、他の商品に落書きをするなど、グレたひよこちゃんを表現する。すると「ひよこちゃん大変だったね」「黒ひよこちゃんになってしまうのもわかるよ」という心情が生まれるわけです。このように、みんなが納得できるストーリーを結構考えて仕込みますね。
また、ブランドのキャラクターを理解しておくことも大事です。4マス広告が全盛だった頃は、企業が描くブランド像や自社イメージを伝えていれば良かった。しかしそれらは、今や企業がコントロールできるものではないと思っています。
消費者は消費者なりの視点で企業を見ていますし、発信されたイメージと差があるときは「そうじゃないよね」とSNSで発信しやすい。企業と消費者が思うキャラクター像の中間点を見つけるのが、ブランディングには重要だと感じています。