若年層マーケティングは、仲間・共感がポイント
MZ:多方面からの施策が、TikTokとの架け橋になっていったことがうかがえます。ではTikTok内で「今日好きダンス」が話題となったことで、視聴にはどのような変化がありましたか。
野村:TikTokを運用する前後で比べると、番組の視聴数が約160%伸びました。「今日好きダンス」のハッシュタグがTikTok週間ランキングの2位に入ったことを受けて、TikTokバージョンに編集した主題歌もリリースしています。
さらにTwitterや広告を活用して、「今日好きダンス」そのもののプロモーションも行いました。これも反応が良く、「今日好き」という番組から生まれた「今日好きダンス」という再認知のブリッジを、もう一押ししましたね。
TikTokの中と外を認知が行き来していくにつれ、盛り上がりの円が膨らんでいく感覚がありました。手前味噌ですが、ここまできれいな流れを作ってプロモーションができたことには正直驚きました。
MZ:ここまで成功に導くことができたポイントはなんでしょうか。
野村:これはTikTokに限らず、若年層マーケティング全般に言えることですが、コミュニケーションの距離感に気をつけなくてはいけません。具体的には、マーケティングを仕掛ける側のメッセージを押しつけないということです。
彼・彼女たちが素直に楽しめ、その層のスタイル・価値観・考え方を自然体でふるまえるコミュニケーションにすることが大切です。大人は理屈で理解をしているといっても、ターゲットのど真ん中にいるわけではないですから。
MZ:何が流行っているかは追えますが、その面白さ・楽しさを大人が実感することは難しいですね。
野村:だからこそ、すべての考え方を彼・彼女らの起点に振り切ることが大事ですし、最も難しいところでもあります。自然な流れで興味を持ち、巻き込まれているという納得感のある一連の文脈が大切。手順は多くなりますが、大きな塊として人を動かすためには必要です。
情報を発信する側、受信する側という関係ではなく、対等というよりは仲間、同じ目線、共感を持つ、そのようなコミュニケーションを取りたいですね。
ターゲットを刈り取る視点では失敗する
MZ:AbemaTVでは、相撲や将棋、アニメなどコミュニティが確立しているコンテンツの人気が高く、コミュニティの文脈を理解したマーケティングを設計していると聞きました。今回も若年層への理解が前提にあり、そこにTikTokがうまくはまったという印象を受けます。
野村:プロモーションには、ターゲットがいて、伝えたいこと・理解して欲しいことがあるものです。しかし、TikTokにターゲットがいるから刈り取ろうという発想では、うまくいかないと思います。メディアやプラットフォームごとに、目的と一連の文脈で作るストーリーを設計する必要があります。そのポイントは、人の流れ、情報の出し方、順序と設計ですね。
たとえばAbemaTVは各SNSにアカウントがありますが、使い方はすべて異なります。「今日好き」も、ファンとのコミュニティとして運用するアカウントは、番組の公式Instagramです。一方、初めて視聴する方向けの情報発信はAbemaTVの公式Twitterと、 役割を分けています。
その上でTikTokをどのような位置づけにするか迷いましたが、まずはチャレンジすることを優先しました。先に答えがあったからではないんですね。日頃から宣伝本部では、世の中の最も旬で熱いところへ入っていくことを、意識的に行っているんです。