信頼性を担保する2つの方法
小西:これからの時代、新たな信頼性を担保するには、2つの方法があると思います。
1つは、これまでのマスマーケティングを形作ってきた「情報の非対称性」、つまり企業側に最新の情報があり、消費者はそれを受け取るだけという形に限界が来ているということ。ある意味、ソーシャルプラットフォームの中に膨大なデータが集中して蓄積されている状態も、情報の非対称性といえます。個人情報の扱いについても、企業が「濫用しません」と言っているだけでは、それが本当のことなのかどうか、誰にもわかりません。残念ながらこれまではむしろ、膨大なデータを基にした経済活動が先立ち、消費者の信頼を裏切るようなことが増えて来たと思います。
だからこそ、相互監視が可能な、民主的な形での信頼性担保の仕組みが必要とされています。たとえば今、注目されているのが、分散化技術としてのブロックチェーンです。欧州ではGDPR(EU一般データ保護規則)が2018年5月に発効されましたが、ブロックチェーンについても欧州は個人を中心にした思想的なバックグラウンドから、活用の取り組みが進んでおり、民主的な情報コントロールや取引のあり方で、新しい形の「信頼」をブランドにももたらすチャンスがあります。
谷古宇:もう1つの方向性とは?
小西:メディアにとっては、ビジネスモデルそのものの変化です。世界のデジタル広告における成長の半分がGoogleやFacebookなどのプラットフォーマーで占められる状況の中で、PVやUUを成長の指標とするようなユーザー滞留型メディアの広告ビジネスモデルは今後、ますます厳しくなるでしょう。
これまでのような単純な「読者獲得」ではなく、先ほどお話ししたように、コミュニティを可視化することで読者と直接、価値観や意見を共有・交換したり、情報ではなく、行動のプラットフォームとして、新たな信頼性を確立していくこと。そして広告依存に寄り過ぎない、コンテンツの権利化やサブスクリプションをベースとしたビジネスモデル作りが重視されるようになっていくでしょう。欧米では既に、そうした動きが高まっています。
谷古宇:日本のメディアの動きはいかがですか。
小西:朝日新聞社はいくつかのバーティカルメディアを束ねた新しいメディアの試みを開始しましたが、本来であれば、強力なコンテンツパブリッシャーが“共同戦線”を張り、メディアが提供する新しい価値の確立に取り組むべきだと思います。また、経済ニュースを扱うデジタルメディアの中には、読者に記事を提供するだけではなく、むしろ、読者とのコミュニティ作りやコミュニケーションに注力し、新しいビジネスを展開している企業もあります。
そうした先進的なメディアを育てていくエージェンシーの役割が改めて問われていることも確かです。エージェンシーの役割には、多様な価値観を持つメディアを育てることで、そのメディアの価値を通じて企業のブランディング向上を支援することでもあります。
メディアとブランド企業、そして、我々のようなエージェンシーはこれまで以上に連携を強め、社会に対して、信頼性を確保できるような「理念」や「価値観」を訴えていく必要があるはずです。
谷古宇:対話のテーマがかなり大きくなってしまったのですが、最後にマーケターは今後、どのようなことを心がけておくべきでしょうか。
小西:時代の大きな流れをつかむことはマーケターにとって、とても重要なことだと思います。今日のブランド戦略においては、社会的な目的や課題解決をブランドに組み込んでいくという動きが大きくなっています。しかし、賛否両論があるような、社会に対する大きなインパクトを及ぼすアクションを展開するには、1社だけではリスクが高い。だからこそ、社会的な価値を伝達・牽引するメディアとのコラボレーションや、消費者との相互信頼の仕組みを構築することが必要になってくるのです。
株式会社はてな 統括編集長 谷古宇浩司
株式会社BCN、アイティメディア株式会社、株式会社インフォバーン/メディアジーンを経て、株式会社はてな 統括編集長 兼 サービス開発本部 開発第5グループ プロデューサー。前DIGIDAY[日本版]初代プロデューサー、前BUSINESS INSIDER JAPAN 創刊編集長。
株式会社電通 ソリューションディレクター 小西圭介
株式会社 電通 ソリューション開発室 ソリューションディレクター。1993年入社。2002年、米国プロフェット社に出向し、デービッド・アーカー氏らとグローバル企業のブランド戦略構築に携わる。現在はコンサルティング・ディレクターとして、数多くのクライアントのブランド・マーケティング戦略サポートを行うとともに、多数の講演、執筆などで、デジタル時代の新しいブランドおよびマーケティング戦略モデルを提唱している。著書『ソーシャル時代のブランドコミュニティ戦略』、訳書に『顧客生涯価値のデータベースマーケティング』(いずれもダイヤモンド社)他。