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米国最新事情レポート『BICP MAD MAN Report』

オプトインの輪を拡大する、「Amazon Go」の真意

Amazon、Alibaba、Tencentらが店舗に投資する真の目的

 中国では、Amazonより早い2016年8月に無人コンビニ「BingoBox」の1号店が開業している。

 QRコードでドアを開けて、「セルフ」で商品をスキャンして購買する仕組みは「既存テクノロジー」の応用だ。一方でAlibabaグループが2017年7月に開業したレジがない「Tao Cafe」もQRコードをかざして入店し、店を出るときに商品をスキャンする仕組みである。

 「BingoBox」や「Tao Cafe」の仕組みは、安易な既存アイデアの組み合わせに見えるが、実は米国で立ち上がっているテクノロジー・ドリブンな「無人レジ」のスタートアップよりも、かなりAmazon Goに近いビジネス目的がある。

 前出のBingoBoxの支払い決済は「WeChat Pay(Tencent)」で顧客とつながる「輪」を作っており、後出のTao Cafeは親会社Alibabaの「Alipay」で自動的に決済される「輪」を作っている。決済がスマホ上で行われるのは、どの無人レジ店舗も同じだが、「Amazon Go」「BingoBox」「Tao Cafe」らは、その店舗以外のサービスも受けられる「お得なグループ」を形成している点が、単なる店舗の省力化をB2Bで提供するサービスとの目線の違いだ。ユーザー側からすれば、普段使っている「Amazon Prime」や「WeChat Pay」、「Alipay」の輪に属したまま、使えるサービスがさらに近所に一つ増えた、という状態だ。

ユーザーとのエンゲージメントの「輪」を拡大する

 今のところ、先に紹介したすべての無人レジサービスは、店内カメラを設置してAIによる人物と行動の認知をすることで決済する方式なのだが、そろって「顔認識による個人情報は入手していない」というスタンスを掲げている。

 実際のAmazon Goの店内は、レジは無人でも大勢のアシスト店員が張り付いている状態で、今の所は「省力化」どころか逆に人手がかかっているような運営だ。Amazon Goのシステムに人々が「慣れる」までには当然時間がかかり、「説明要員」が必要になる。Amazonは公表していない(できない)が、この間に着々とPrimeメンバーの行動データと「顔認証」のデータを積み上げて、次のサービスの準備を進めていると予想される。

 Amazonがリアルの店舗に進出した狙いの一つが「堂々と生体認証データ(顔認証)」を収集することだ。AmazonはPrimeメンバーの決済情報や購買データなどは積み上げているが、本人の生体情報までは取り込めていない。リアル店舗の無人化サービスによる「カメラ」という入力機器を「堂々と」オプトインで設置できることにより、「あちこちで」観察できるカメラを今後増やして行くことになる。

 一方でユーザー側も、iPhoneやパソコンの顔認証機能や指紋認証をはじめとした生体認証技術が徐々にポピュラーになり、「自分の顔」を「自分で使う」ことに慣れ始めてきている。「忘れてしまうパスワード」よりも、「自分」を認識してくれる技術のほうが、確実で便利だろう。

 この生体認証を企業側が使うには、プライバシーや権利への侵害に対する抵抗はまだ大きい。しかしこの状態もいずれは、「Amazon Prime」や「WeChat Pay」「Alipay」などの既に信頼している「自分のインフラ」であれば、「顔パス」のオプトインの便利さに慣れ、違和感を持たなくなるのもそう先のことではない。中国では防犯目的やクレジットスコアの蓄積目的で、国をあげて推進を始めている。

 「カメラ(+AI)」が設置された生体認証による本人確認が進めば、「QRコード」や「アプリ」、そして「スマホ」さえも介在しない、リアル店舗での取引が生まれることになる。AmazonがAmazon Goや「Whole Foods Market」等のリアル店舗に投資する真意は、パブリックの中に設置される「公認カメラ」を増やし、「目」を設置することでユーザーとのエンゲージメント(オプトイン)の「輪」を拡大させることである。

本コラムはデジタルインテリジェンス発行の『DI. MAD MAN Report』の一部を再編集して掲載しています。本編ご購読希望の方は、こちらをご覧ください。

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この記事の著者

榮枝 洋文(サカエダ ヒロフミ)

株式会社ベストインクラスプロデューサーズ(BICP)/ニューヨークオフィス代表
英WPPグループ傘下にて日本の広告会社の中国・香港、そして米国法人CFO兼副社長の後、株式会社デジタルインテリジェンス取締役を経て現職。海外経営マネジメントをベースにしたコンサルテーションを行う。日本広告業協会(JAAA)会報誌コラムニスト。著書に『広告ビジネス次の10年』(翔泳社)。ニューヨーク最新動向を解説する『MAD MAN Report』を発刊。米国コロンビア大学経営大学院(MBA)修了。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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2018/11/26 15:15 https://markezine.jp/article/detail/29744

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