愛と憎しみは紙一重
兒嶋氏は、もう1つの議論のテーマである「ブランドに対する態度と思いが行動的ロイヤルティに反映される」について話を移した。この言葉は下記の意味を持っている。
消費者は、自分が使用しているブランドほど知識が豊富で多くを語るが、使用しないブランドについては考えることも語ることも非常に少ない。従って、ブランドに対する態度を評価する調査を実施すると、大きいブランドはロイヤルティの高いユーザーを多く含むので常にスコアが高い。
出典:『ブランディングの科学 誰も知らないマーケティングの法則11』
バイロン・シャープ、朝日新聞出版
江澤氏は「認知的ロイヤルティが高いとより強くその傾向が出ると思う」とした。マーケターのようにブランドに深く関わる人間だからこそ語れるのであって、ライト層よりも購買回数が少し多いくらいでは語れないというのだ。
一方廣澤氏は、江澤氏の「ブランド担当者であれば語れる」という言葉が1つ危険な要素を孕んでいると語った。
「『愛憎』という言葉があるように、ブランド愛は危険と隣り合わせでもあります。それが深ければ深いほど『なぜ良さをわかってくれないんだ』と、(消費者への)憎しみに転換してしまう可能性があるから。伝わらない理由は、その商品の魅力が確かだとしても、メッセージやプランニングに問題があるわけです。ブランド愛を持つのは良いことなんですが、一歩引いて俯瞰することも必要だと思います」(廣澤氏)
廣澤氏は、消費者視点に立ち返るため、商品開発のメンバーへ技術のヒアリングをしつつ、それが本当に消費者に求められているのかを考えるようにしているという。
この他にも、2つの法則に関連する議論は繰り広げられたが、最後に兒嶋氏は以下のようにまとめた。
「1冊の本を通じて、幅広い議論を展開することができました。本を読むときは、内容を鵜呑みにするのではなく、自分の立場に落とし込んで考えることが大事だと思っています。このような議論が若手マーケターの間で活発に行われると、業界のレベルの底上げにつながっていくのではないでしょうか」(兒嶋氏)
広告主・代理店の健全なコミュニケーションの秘訣とは?
続いて行われたのは、「KPI達成のボトルネックはコミュニケーション?~広告主・代理店のすれ違いはここで生まれていた~」だ。このセッションでは、広告主と代理店のコミュニケーションにおける、理想と現実にある乖離、その乖離を埋める方法について議論した。登壇者は以下の5名。

写真上段左から、
・株式会社フリークアウト 利光 樹氏(モデレーター)
同社の中部エリアのクライアントが抱える課題解決に奮闘中。
・小林製薬株式会社 西川 剛史氏
同社通販のオンライン担当として、Web広告の運用管理を担当。
・株式会社フェリシモ 岡野 綾香氏
自社通販のWebプロモーション担当として広告、アフィリエイト、SNS運用、サイト改善を担当。
写真下段左から、
・a-works株式会社 百々 雅章氏
健康食品、コスメを中心とした複数案件のアフィリエイト運用を担当。
・株式会社ウェンドレス 片岡 朋也氏
同社にて営業のマネジメントを行っている。
そして今回、両者間で行われるコミュニケーションでも、フォーカスを当てたのが、初訪と定例会だ。
まず、初訪における理想とは何か。フェリシモの岡野氏は「お互いが良いパートナーとしてマッチングするために、弊社について知って欲しい」とし、これに関しては全員が同意していた。しかしながら、現実はそう簡単ではない。代理店が「媒体資料だけ持って行くだけになる」ことも多いという。その理由としてウェンドレスの片岡氏は以下のように語る。
「課題を教えてくれない、もしくは理解していないケースが多く、提案したくてもできない」(片岡氏)
これに対し、広告主側も反論する。小林製薬の西川氏は大量の媒体資料を見せられ、結局何が伝えたいのかわからずじまいになることが多いという。岡野氏も、「いきなり『課題、KPIはなんですか?』などと聞かれても、NDA(秘密保持契約)も結んでいないのにいきなり話せない」と、コミュニケーションに溝がある現状を明らかにした。
では、どのような解決策が考えられるのか。西川氏は「相談相手になって欲しい」という。
「事業者側になると横のつながりがなく、他業界の方が何をやっているのかわからなくなりがちです。個人的には、経験値をもとにマウンティングされたい(笑)。『そこまでわかってるなら頼むわ』と思えるので」(西川氏)
一方、代理店側ではどのような改善案を考えているのか。百々氏は営業の仕方に問題がないか再確認すべきとした。
「確かに、数を多く回るのであれば、媒体資料は合理的で効率的です。しかし、ヒアリングや提案にかける時間が取れないのであれば、テレアポはやめるなど、営業の動き方を変えるべきかと」(百々氏)
