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マーケティングを経営ごとに 識者のInsight

一貫した顧客体験を実現する すかいらーくの攻めの戦略

事実か、意見かを明確に 科学的なリーダーシップを発揮

――では、すかいらーくでの挑戦をうかがいます。まず、なぜ社外役員から社内へポジションを移されたのですか?

 端的に言うと、2011年から大株主だったファンドのベインキャピタルが2017年末に株式をすべて売却し、完全に独立した上場企業となったことが契機です。ガバナンス構造として、ファンドがついていると経営のアドバイスや問題が起きた際のリソース提供などが得られ、非常に厳しい管理の下での経営ができるんですね。収益が継続的に得られるようなKPIを設定し、健全な運営ができる組織を作る。また様々な判断について「本当に正しいか」を徹底的に洗い、ありとあらゆる情報を集め、ここまでやるかというくらい厳しく追求する、それをスピーディーに行えます。

 これはコンサルの考え方と同じですね。私のコンサルや外資系企業の経験を踏まえると、日本企業のほとんどはそのあたりが非常に甘いと感じています。なんとなく調査した判断材料を並べながら、結局は社長や特定の人の鶴の一声で決まるという経営管理では立ち行かないですし、失敗しても現場は「上の責任」と思うだけで、ナレッジも得られない。

 強いガバナンスを敷けるほど、戦略の純度と尖り度も高まります。逆に言うと、外からはリスクに見えても「我々にとってはリスクではない」というアグレッシブな戦略を取れるようになる。そういう組織のマインドセットと、情報収集と議論を尽くした経営が今後すかいらーくには必要ですし、それが私のミッションだと考えたので、社内に入る決断をしました。

――「一見リスクだが自分たちにとっては違う」と判断するのは、相当難しいように思います。情報収集以外に意識されていることは?

 「事実なのか、意見なのか」を厳密に分けること、ですね。ファンド時代が長かったこともあり、これは我々すかいらーくには行動原理として浸透しているので、私も非常に円滑に仕事ができています。

 食事って、主観ですよね。おいしいか、おいしくないか。また流行り廃りも主観が大きく影響します。ただし経営では、自分たちや一部のお客様の主観の意見で決めるべきではありません。事実に基づいて、科学的なリーダーシップを発揮することが重要だと思います。これは言うは易しで、人間誰もが主観に基づいて物を見るので、それも踏まえて我々は常に厳しく「事実か、意見か」を互いに言い合っているところがありますね。

 たとえばメニュー作りにしても、事実を集めた上で、凡庸にならないようにする。事実の確証があるから、じゃあこの層には受けないだろうがあえてこちらの層を狙って出そう、という一見リスクのある施策を打てるんです。これはテレビCMやデジタル動画やバナー広告などでも全部同じです。現社長を含めて経営陣は皆、ファクトのインプットを重視していますし、同時に勉強会などで常にマーケティングの最新事情も追っているので、新たな手法や技術の導入に他の経営陣の理解が得られないこともありません。

一貫した顧客体験のために ITはじめ投資を強化

――「MarkeZine Day 2018 Autumn」でご登壇いただいた際は、アプリのプッシュ通知でのクーポン配信をはじめ、各種のIT投資についてお話しいただきました。今後もIT投資は続ける考えですか?

 そうですね、前提として、一貫した顧客体験の充実につながる投資は今後も増やしていきます。店舗数や内装デザインもそのひとつですが、特に注力するのがITという位置づけです。それはアプリなどのプロモーションに加えて、店内のIT化も大きいですね。今まさに、店舗スタッフが注文をスマホで取るシステムをテスト中ですが、キッチンのディスプレイに、お子様連れの顧客など急がなければいけない注文を自動的に優先度高く表示するシステムを作りましたので、オペレーションがとてもスムーズになります。グループの「しゃぶ葉」では、テーブルで注文して、お客様のスマホでテーブル決済までできる仕組みを構築中です。

 こうした投資も、やはり徹底した調査に基づいて確証を持って行っているものです。「よくわからないから投資できない」ではなく、「わかっているから投資できる」。これは今後もぶれない当社の姿勢です。

――その一貫した顧客体験のために、来年の注力点を最後にうかがえますか?

 ひとつは、顧客情報を使ったレコメンデーションです。技術的には可能ですが、技術というより受け止め方の問題で、実はまだ本格化していませんでした。要は食べた履歴を全部把握しているので「先週これを食べましたよね?」と言われたら気持ち悪くも感じてしまう。そこでメッセージやタイミング、どんな形ならいいのかの知見を蓄積していて、ようやくお客様に自然に受け入れられ喜んでいただける方法が見えてきました。なので、パーソナライズしたレコメンドを中心にCRMを強化していきます。

 それから、アプリでは他社との連携を積極化していきます。今年は吉野家さんと共通クーポンを発行しましたが、大きなインパクトのために、また顧客データ収集とその有意義な活用のためにも、協業の施策は今後も続けていきます。データをもとに、たとえば健康のアドバイスなどができれば、お客様への還元、ひいては社会問題の解決にもつながると思っています。

 コンビニなどで食事を買うのではなく、店舗へ行くからには食事に加えてなんらかの体験が期待されていて、食事に向かう気持ちが根本的に違います。“ファミリーレストラン”という言葉を生み出しリードしてきた企業として、当社はやはり、「誰かと一緒に食事を楽しむ」というかけがえのない時間を提供したいと考えています。豊かな食事の時間は、心の健康にもつながるはずです。今後もその信念を持って邁進していきます。

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

安成 蓉子(編集部)(ヤスナリ ヨウコ)

MarkeZine編集部 編集長
1985年山口県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。専門商社で営業を経験し、2012年株式会社翔泳社に入社。マーケティング専門メディア『MarkeZine』の編集・企画・運営に携わる。2016年、雑誌『MarkeZine』を創刊し、サブスクリプション事業を開始。編集業務と並行して、デジタル時代に適した出版社・ウェブメディアの新ビジネスモデル構築に取り組んでいる。2019年4月、編集長就任。プライベートでは2児の母。

★編集...

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MarkeZine(マーケジン)
2018/12/25 13:00 https://markezine.jp/article/detail/29958

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