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MarkeZine Day 2025 Retail

米国最新事情レポート『BICP MAD MAN Report』

NIKEとAmazon リアルとオンラインの顧客に対する哲学の差

リアル店舗が持つ「体験提供」より大きな価値

 店舗(企業)にとって重要な課題は、「アプリ」をビジネス起点として位置づけることだ。アプリ開発が重要なのではなく、アプリを通じたオンライン上での「オプトインの共存契約」を取り、その関係を深める決意やカルチャーづくりである。

 リアル店舗を一等地に構える場合、匿名の来店者が能動的に訪問してくる上に、「リアルの場所ならでは」の感情移入が行われるモメンタムが発生する。この瞬間こそが、匿名の来店者からオプトインの契約を結ぶ絶好の機会だ。この目的のために企業側(店舗側)は最高のオンライン体験を提供する。リアル店舗経営には、来店がオンライン顧客に転じ、深めるための「絶対運営マニュアル」が存在するはずだ。

 たとえば「Amazon Go」を筆頭に、今では「Walmart」の店頭ですらもオンラインメンバー化に向けて「アプリの起動が入店の絶対条件」、そのために「ディスカウントなど、圧倒的にわかりやすいメリットを掲示」「アプリのプロモーションを店頭の第一メッセージにする」等が徹底されている。

 ところが実際の五番街のNIKE旗艦店の店頭では、「オンライン起点」の意思と徹底順位が弱く、単なるトラフィック依存の「シャレた靴売り場」に落ち着いている。筆者は前のめりでアプリ登録・起動しつつ(アプリ詳細は割愛)、来店者のスマホ画面も覗いてみたが、スキャン機能や決済機能を利用しているユーザーは極端に少ない(見当たらない)。店内スタッフの行動も、旧来の店舗にあった物理アテンドや商品販売が重視で、アプリがなくても過ごせる店内であった。

ニューヨーク五番街のNIKE旗艦店「Nike House of Innovation 000」 (筆者撮影)
ニューヨーク五番街のNIKE旗艦店「Nike House of Innovation 000」(筆者撮影)

店舗に表れる企業理念 匿名ファンを個人ファンに変える決意

 リアル店舗の「デジタル化」や「オンライン化」を一口に片付けられないのは、これらの施策には「企業理念」や「哲学」に通じる根底の考え方が反映されているからだ。

 NIKEはマス広告で培った「リーン・バック(受け身視聴)」での大衆マーケティングで熱狂層を作ることは秀でているが、一人ひとりのデジタル・アカウントの土壌へ向けて「リーン・イン(踏み入る)」で関係を構築することに対してはまだ発展途上であり、長い道のりがありそうだ。

 同じリテール市場でのAmazonは、顧客に対して「オンラインでの会員(Prime Member)登録」「オンラインでの行動を基軸とする」という意思と行動は見事に徹底している。たとえばAmazonは「Whole Foods Market」を買収した直後から、店頭入り口に巨大な「Prime Member入会」の横断幕を登場させた。さらに店内にはPrime Memberだけのディスカウント価格が提示され、アプリのダウンロードやQRコードがズラリと並ぶ。「誰でも気づく」ほどの提示の優先度合いから、「オンラインが起点で、命」というAmazonの意気込みが見える。これが企業の哲学になる。

 AmazonがWhole Foods MarketのM&Aにて獲得したのは、単なる「リアル店舗400拠点」ではない。そのアナログ拠点に群がっていた「匿名」の顧客を、Amazonの「オンライン顧客」として転身登録させ、Prime Memberに加えた価値にある。もちろん顧客がPrime Memberになるには、メールアドレスや住所や決済情報を入力・公開する「手間」のハードルがある。それを「越えさせる」ことを、「感情移入」を可能とするリアル店舗と店内社員が担う。

 NIKEは熱烈なファンを匿名で大勢抱えているブランドだ。課題はNIKE内部における「匿名大衆から人気を得るか、実名個人から愛されるか」の優先順位の転換だ。これまでNIKEが得意としてきた匿名のファンづくりを重視するスタンスを進化させ、個人情報を提供してまでも惜しみなくコミットする「名乗るファン」づくりに向けて、1対1で接していく重要性に気づけるか。NIKEなら大いに可能なはずだ。

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この記事の著者

榮枝 洋文(サカエダ ヒロフミ)

株式会社ベストインクラスプロデューサーズ(BICP)/ニューヨークオフィス代表
英WPPグループ傘下にて日本の広告会社の中国・香港、そして米国法人CFO兼副社長の後、株式会社デジタルインテリジェンス取締役を経て現職。海外経営マネジメントをベースにしたコンサルテーションを行う。日本広告業協会(JAAA)会報誌コラムニスト。著書に『広告ビジネス次の10年』(翔泳社)。ニューヨーク最新動向を解説する『MAD MAN Report』を発刊。米国コロンビア大学経営大学院(MBA)修了。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2019/01/25 15:15 https://markezine.jp/article/detail/30153

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