DMはフロー型ではなく、ストック型
紙であるDMが持つ特徴のひとつは、テレビCMやSNSのようなフロー型ではなく、ストック型だという点です。同じメッセージを配信しても、電子メールの場合は無視されたり、すぐに忘れられたりすることが多いですが、紙は記憶に残りやすいです。その意味で、私が過去審査したDMの中で高く評価しているのが、石川県金沢市にある味一番という飲食店のDMです。

作品名:「顧客リスト収集DM」
制作会社:味一番
このDMは、近隣の見込み客の発掘と来店への誘導を目的としたものです。住所と名前を記入し、持参してもらうことで3回までの割引券として使えるようにしています。決して凝ったクリエイティブではありませんし、むしろ「なんだこの野暮ったいDMは?」と思われるかもしれません。しかし、シンプルかつストレートに「来てください」と伝えるハガキになっているため、「行ってみようかな」と思わせることができます。また、仮にこのDMを使わないとしても、記憶に残り、人の気持ちをほっこりさせてくれてる内容です。困ったら、現状でつながっている顧客に対して手紙を送ってみることは、シンプルかつ効果的ですね。
味一番のやり方は、デジタル時代だからこそ効果的なコミュニケーションとも言えるでしょう。手紙の場合、受け取ってからしばらくは手元に保管しておくことが多く、2日後にとりあえず置いていたものに気づくということもあります。また、封筒を開けた瞬間に目に入るものの工夫を凝らすこともでき、アナログでもデジタルと同じようにきめ細かな心遣いが可能です。
さらに、紙媒体が持つ特徴である保有効果(すぐに目の前から消えるわけではないので、数日経って見返すこともある)を活かし、デジタルのコミュニケーションの間にアナログのDMを挟むことも効果的です。DMを送って数日後に電話をかけてみれば、「ああ、あのDMですね。見ましたよ」と思い出してもらえるでしょうし、「じゃあ」と行動に移す人も出てくるでしょう。個人ではなく世帯に届くため、家族と届いた情報をシェアすることもできるわけです。
デジタルを使った効果測定はマスト
このように、別々のメディアが役割を分担するようにコミュニケーションを設計すれば、多様性のある施策を展開することができるようになります。DMは、キャンペーンの開始・途中・終わる直前と、アイデア次第でどこにでも活用でき、上記で見たようにブランディングから来店誘導まで、用途を大きく拡げることができます。顧客に何かを伝えたいと思ったとき、必ずしもトリプルメディアをどう使おうかなどと難しく考える必要はないのです。
一方で、DM施策を行う際の注意点があります。それは、効果測定の方法です。シンプルなハガキのDMならば一通62円から送ることができますが、何万通も送るとなるとクリエイティブ制作費などを加味する必要があり、数日後のアウトバウンドコールの手間まで考えると相当な費用が想定されます。
その意味では、その意味では、DMの中にデジタルの要素(QRコードや個別クーポンコードのリンクなど)を加えて、効果測定を行うことはマストだと思います。デジタルを使えば、母集団を変えたり、クリエイティブを変えたり、反応率を確認して割引率を変えてみたりと、試行錯誤するときの判断材料を得ることが容易です。決して、フロー型優勢の時代にストック型のコミュニケーションの是非を訴えたいのではなく、DMを送るなら効果測定を前提に行うべきだということを強調しておきたいと思います。
私もかつて利益率の高い「おせち」DMの効果実験を行いましたが、たとえば、チラシを見ながらスマホでQRコードを印刷して、スキャンすればすぐに買えるようにするなど、リアルにデジタルのプラグインを入れることで、リアルがより良くなる可能性があると思います。