CMは顧客より早く「社内」を変える

続いて取り上げられたのは社内、そして個人の「自己変革」について。木村氏はまず、西友時代の取り組みを紹介した。西友ではCMにおいて、「カカクヤスク」や「みなさまのお墨付き」といったコピーを出してきた。木村氏はそれを、インナーマーケティングという認識で取り組んでいたそうだ。CMによって、顧客よりも早く社内が変わるのだという。
「お客様は『カカクヤスク』だと思って来店されるのだから、一刻も早く、価格を安くしなければならなくなります。ですので商品部は、取引先との価格交渉に本格的に取り組むようになりました。実はそうしたメッセージを、CMを通じて社内に伝えていたのです」(木村氏)
木村氏はサンリオにおいても、マーケティングが主導する社内改革を進めていく考えだ。
続いて、マーケターが個人としても「変革」するにはどうすればよいのか。木村氏はまず、マーケターには2種類の人材がいると説明した。
1.儲かる仕組みを構築できる人材
2.施策(How)の実施者
マーケティングは商売であるため、儲けを生むことが大切なのはもちろん、それを属人的にせず、仕組み化することも重要だ。木村氏は「ゼロから1で儲ける仕組みを作れることが、マーケターの大きな素質」だと語った。
もうひとつは「施策(How)の実施者」で、こちらのタイプの方が数は多い。しかし施策の実施者ばかりでは、ビジネスが継続的に成長していくことは難しい。
「マーケターとして上を目指している方は、儲かる仕組みを構築できるかどうかをバロメーターにすると、まだまだ成長の機会があると思います」と木村氏は述べ、施策を担当しながらであっても、仕組みを考えてみるよう勧めた。
効率だけでなく「効果」を狙え
セッションの最後には、マーケターに大切な3つの能力が共有された。1つ目は仮説構築力である。
「顧客の行動の裏側に、どんなインサイトがあるのか仮説を立てること。それができないと調査はできないし、したとしてもそれで終わってしまう。数字の裏側を読み解く力があるのがすごく大事です」(木村氏)
2つ目は、効率だけでなく「効果」を狙う勇気を持てるかどうか。マーケティングの世界には様々なツールが溢れており、多くの場面で「100万円かけたらこれくらいのリターンがある」といった効率の話が出てくる。しかし木村氏は、効率が重視されるあまり、売り上げという重要な点が議論から抜け落ちていることが多過ぎると指摘。KPIの設定を、実額で行うのがよいと提案した。
また、大切なのは施策を「点」で終わらせるのではなく、積み重ねていくことだという。
「キティは45年生きているわけだから、45年分のイメージをないがしろにして全然違うことをしてもうまくいかない。蓄積してきたイメージを資源化して、それをアップデートしていくことが重要です」(木村氏)
最後に挙げた「マーケティング以外の組織に入り込める能力」について、木村氏は次のように説明した。
「よく部分最適を考えがちですが、マーケティングをやるためには、横の部署の方々、関係のない方々と『いつか一緒に仕事をしよう』と会話をできることが大切です。いつか必ず、その人にお願いする機会ができるからです」(木村氏)
マーケティング施策を実行するときに、どれだけ周囲の協力を仰げるかが、成功のカギとなるのである。木村氏は「組織を構築することに加えて、3つの能力を持ったマーケターを社内にたくさん作ることで、マーケティング主導で売り上げを達成できる会社ができると思います」と述べ、セミナーを結んだ。