なぜ企業は「オムニチャネル」を実現できないのか?
原嶋:EC化が進んでいくことでデータが溜まり、「オムニチャネル」や、最近では「OMO(Online merge Offline:オンラインとオフラインの融合)」という言葉が出てきました。とは言え、10年以上前からオムニチャネルという言葉はあって、でも実現できている企業は非常に少ない。これは、なぜなんでしょうか?

川添:課題は大きく2つあると思います。一つ目はユーザー側の現状満足。これはヤフーの井上大輔さんが言っていたことなのですが、ユーザーは今「complacency=現状に満足しきっている」状態なんです。企業はユーザーの情報を取りたいので、ECを使ってほしいと思っている。でもユーザーは「そこにお店があるから入る」でなんの不便もない。新しいサービスなど、求めていないのです。
この「ユーザーが満足している状況」で、利用したくなるような提示をできるか。企業は真剣に考えていく必要があります。利便性のアップデートでは限界がありますし、資本をもっている企業が有利になる。改善ではなく、異なるアプローチというのも必要かもしれません。難しい戦いですが、トライアル&エラーで挑戦していくしかないですね。
組織でデジタル化を推進するには?
原嶋:確かに、今は企業が一方的に情報を集めようとしている状況ですよね。たとえば会員サイトなどでも、ユーザーにとっては、ログインするメリットがないことも少なくない。情報が欲しいのであれば、企業はユーザーにとっての「情報提供価値」をきちんと考えるべきですね。もう一つの課題はなんでしょうか?
川添:もう一つは、よく言われていることですが「組織的な問題」です。デジタル施策の重要性など少しずつ理解が広がっていますが、まだ全員に浸透しているわけではない。その結果、閉ざされた状況でしか情報が見えないということが起きています。「オンライン上で新宿店への予約が入ったら、新宿店にのみ伝わる」では、だめなんです。常にどの店舗にどのくらい予約が来ているかを可視化できれば、これまで「なんとなく」で掴んでいた「忙しい状況」などが事前につかめるようになります。
組織でデジタルを推進する際にも、「デジタルを活用する価値」を示すことが重要です。またタイミングも非常に重要で、先ほどと同じく「満足している状態」では、聞き入れてもらえないことも多いので、課題に直面したときに「デジタルでこういう解決策があるよ」というのを少しずつ伝えるなど工夫が必要です。