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米国最新事情レポート『BICP MAD MAN Report』

サブスクリプション・ビジネスの新形態

定額課金よりも都度課金が向いている分野

 これまで同業「搾りたてジュース屋」の場合、サブスク・メンバーに対して、月額定額の課金で、ジュースの割安パッケージを定期的に宅配するサービスを提供していた。筆者もサブスク・ジュースの宅配を体験済みだが、宅配されたジュースを飲まなかったことでどんどん冷蔵庫に在庫が増えてしまい、それが理由でサブスクを辞めてしまうことになった。これは食材・ミールキットの宅配サブスク大手の「Blue Apron」や「Hello Fresh」などにも共通する、「最初は便利で使ってみたけれど、だんだん不便になった」という「サブスク・サービス疲れ」の傾向だ。

 ところが「pressed juicery」の場合は、メンバー(会員)のサブスク課金の手法が、「毎月最低10ドルのご利用」という約束だけで、課金は商品の都度購入というオンデマンド方式である。都度購入ならば、自動的に次々と届いてしまう商品を抱え込むことはない。登録メンバーの特典は、1本7ドルのジュースが5ドル(約550円)で買えること。1本あたり(何と)2ドル(も)違い、月に10本飲むなら20ドル(約2,200円)も安く、実に約30%のディスカウントを受けることができるのだ。

顧客への課金を意識するよりも維持に力点を置いたアイデア

 この「最低利用額の約束+都度課金」の仕組みがユーザーにとって魅力的なのは、失うコストがないからだ。たとえば30ドル購買した月の場合であれば、あらかじめ口座から引かれた会費の「最低10ドル」までの商品購入は課金されず、10ドルを上回った20ドル分を口座から支払う仕組みだ。つまり「最低10ドル」は会費ではなく、購入費なのだ。店頭ではスマホのアプリ(Apple Wallet)を提示&スキャンにて、指定口座から引き落とされる。

 加入メンバー側にとってさらに嬉しい魅力は、「退会」や「一時休止」をスマホ上のタップ1回で簡単に操作できることだ。仮に「一時休止忘れ」で10ドル課金された後でも、課金は繰り越されて蓄積されているので、会員契約している限りにおいて失うコストではない。たとえば一時休止忘れを気づいた時に、タップ1回で自動課金を1ヵ月休止して、貯金分を消費することも可能だ。

 この新たなサブスクの仕組みが登場した背景には、月額の定額課金による「サブスクの頭打ち」がある。言い換えると、話題の「見放題」「食べ放題」のサブスク・モデルが消費者に飽きられる分野があることが見えてきたのだ。「なんでもかんでも定額サブスク」に取り組んでいた企業は、「〇〇放題」で釣って「顧客開拓」を目指すビジネスが、実は効率が悪いことに気づき始めた。開拓したはずの顧客の離脱レート(定額疲れ)が高止まりしている事に気づき、その結果「最低額保証」の都度課金の方式が登場した。

 ブランドにとって値引きは簡単に取るべき手段ではないが、単品ブランド(CPG)の場合、割引の魅力は必ず存在する。オンラインでつながる個人の情報を収集するためにオプトインで「割引」を提供し、情報を交換する(共有する)関係作りは今後注目される。

 これまでのマーケティングは、トラフィックをペイド広告で稼いで消費者を引き付け、その先に定額購入を申し込ませる「新規顧客開拓」のファネル論理が多かった。これに対して上記紹介のサブスクの新形態「最低額お約束(休止可能、離脱可能)」の選択肢は、カスタマーリテンション(顧客維持)に力点を置いたマーケティングと言える。ここでもマーケティングにおける「ファネル型からパイプ型へ」の流れが見える。「解約するほうが面倒(所有したものが好きになるバイアス)」という次元にまで、顧客との関係性を深めることができるかが、企業の知恵の出しどころだ。

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この記事の著者

榮枝 洋文(サカエダ ヒロフミ)

株式会社ベストインクラスプロデューサーズ(BICP)/ニューヨークオフィス代表
英WPPグループ傘下にて日本の広告会社の中国・香港、そして米国法人CFO兼副社長の後、株式会社デジタルインテリジェンス取締役を経て現職。海外経営マネジメントをベースにしたコンサルテーションを行う。日本広告業協会(JAAA)会報誌コラムニスト。著書に『広告ビジネス次の10年』(翔泳社)。ニューヨーク最新動向を解説する『MAD MAN Report』を発刊。米国コロンビア大学経営大学院(MBA)修了。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2019/02/25 15:15 https://markezine.jp/article/detail/30391

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