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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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MarkeZine Day 2025 Retail

ダイバーシティから考える、新しいマーケティング・コミュニケーションの視点

グローバル企業が挑む"多様性"を意識した広告の最新トレンド、キーワードは「ビリーフ・ドリブン」


企業のアセットを活用した事例も

山田:他にも、企業が自社のアセットを活用したダイバーシティ・クリエイティブも評価されています。米マクドナルドが「国際女性デー」にあわせて行った取り組みも、非常に興味深いです。この取り組みは、2018年に開催された「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル」のPR部門でもゴールドを受賞するなど高く評価されました。

広告主:McDonald's
公開日:2018年3月8日

 そもそもマクドナルドは、米国内の店舗において女性の管理職比率が60%と他の企業と比べて高く(参考記事)、これはダイバーシティを推進している企業としてのファクトを活用した事例なのです。

白石:企業としてのファクトが背景にあるからこそ、無理をしていないように感じるのかもしれませんね。国内とグローバル企業におけるダイバーシティの取り組みの違いとして、後者はロゴをはじめとした企業のアセットを活用するケースが多い点が挙げられると思います。この事例でマクドナルドは同社の象徴である「M」のロゴマークをひっくり返して「W」にし、International Women's Dayに向けてのメッセージをわかりやすくビジュアル化しています。

山田:このアイデアを着想した人は「これだ!」と思ったでしょうね(笑)。日本でもこういった柔軟な発想を持つ人は大勢いると思いますが、重要なのは、そのアイデアを実行にまで落とし込める文化・組織・風土があるのかということなのかもしれません。すべてというわけではありませんが、卓越した広告クリエイティブを展開するグローバル企業は、国内企業と比べて意思決定に至るまでが早く、権限移譲が進んでいるように思います。マクドナルドはこの取り組みの中で、オリジナルグッズのロゴもすべて「W」に変えていました。

 もうひとつ、アセットを活用した例を紹介しましょう。こちらは、ドイツのスーパーマーケット「EDEKA」が展開した「The most German supermarket」というキャンペーンです。これは、米国がトランプ政権でメキシコとの国境に壁を作り、多様性を排除するような動きを見せたことに対する同社の姿勢を表明するものとなっています。このスーパーマーケットは、海外からの輸入品を多く取り扱っているという強みがあったんですが、ドイツ国内の商品以外を除いたところ、商品の陳列棚がガラガラになった様子を動画と写真で表現しました。この様子を公にすることで、ダイバーシティの重要性をうまく訴えています。

出典:『CLIO』The most German supermarket

白石:多様性が失われた状態をひとつのビジュアルで端的にとらえているのが見事ですね。2018年の広告賞のCLIOでゴールドを受賞したのもうなずけますね。

山田:アセットを活用した例としてこちらも見ておきたいと思います。ユニリーバのブランド Dove(ダブ)が2017年に行った「Real Beauty Bottle」キャンペーンです。これはシャンプーのボトルが人の体型を模した形になっていて、”太った”ボトルや”痩せ型”のボトルなどを表しているのですが……。このキャンペーンはあまりよい反応を得ることはできませんでした。

広告主:Dove UK
公開日:2017年4月26日

白石:パッケージ自体を変えてしまう着眼点は面白いですが、ダイバーシティは繊細なテーマなので、経営資源やマーケティング資材の活用の際は、ネガティブなイメージを与えないためにもファクトと表現のバランスが重要ですね。

「ヘイト」をポジティブに変換

山田:次にご紹介したいのは、ネット上でのネガティブな声をポジティブに変換させたアパレルブランドDIESEL(ディーゼル)の取り組みです。「ヘイトなんて着ちらそう(蹴散らそう)」というメッセージを全面に出しているのですが、こういった発想を実際の取り組みにまで移すことは簡単ではないと思います。

広告主:DIESEL
公開日:2018年9月18日

白石:いわゆる「ジェネレーションZ(一般的に1990年代後半~2000年代に生まれた世代を指す)」世代は、SNSをはじめとしたネット上のヘイトによって強く影響を受けることがわかっています。ダイバーシティのひとつの軸に「世代」もあると思いますが、この事例はターゲット世代に的確に刺さる内容ですね。

山田:扱っているテーマが「ヘイト」ということで重くなりそうな気がしますが、楽観的な印象を受けますよね。

白石:そうですね、あまり重苦しくないというか。

山田:このキャンペーンでは、リアルイベントに加えて消費者から集められたヘイトの声を動画のクリエイティブにしています。動画の冒頭では「動画に登場するヘイトコメントは実際にキャストがSNS上で罵られたコメントです」という注釈が出てきます。若年層に人気のラッパーなども起用していて「ヘイトされることがむしろクールなんだ」というメッセージを発信しています。

 ディーゼルは多様性に関する広告クリエイティブを以前から色々展開しています。2018年初頭には、ブランドの模倣品を扱うショップが立ち並ぶところに、あえて「DEISEL」という誤表記のロゴを使った商品をポップストアで販売しました(参考記事)。ここでは「たとえ見た目に欠点があったとしても、好きなものを着用することを応援したい」というメッセージを発信しています。

白石:伝え方が上手ですね。

山田:押しつけがましくないんですよね。ターゲットの文化やインサイトに寄り添いながら、ブランドとしての資産をしっかりと活かしている。それでいて無理矢理ターゲットに合わせることなく、世の中の現状を把握しながらどう存在感を放っていけるかを追求しているなと思います。

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ジェンダー×クリエイティブ

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この記事の著者

白石 愛美(シライシ エミ)

コーポレートコミュニケーション コンサルタント
株式会社Amplify Asia 代表取締役
株式会社YUIDEA 社外CMO

WPPグループにて、リサーチャーとして主にマーケティングおよびPR関連プロジェクトに従事。 その後、人事コンサルティング会社、電通アイソバーの広報を経て、ダイバーシティを起点に企業のマーケティングをサポートする株式会社Amplify Asiaを立ち上げる。2024年10月より、YUIDEAの社外CM...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2019/08/22 12:27 https://markezine.jp/article/detail/30424

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