独特な日本の広告市場
――アジアのスマホユーザーが相当伸びているというお話が出ましたが、アジア全体において、日本はどのような立ち位置なのでしょうか。日本ならではの市場傾向などはありますか?
頼:経済の観点からお話すると、日本は現在、世界の先進国の中で特に経済成長が低い国のひとつになっています。同時に、文化的にも島国という特性からか、独特なところがあります。変化に対して保守的で、対応するスピード感も少し遅い印象です。
実際、電通イージス・ネットワークが昨年から英国の研究機関オックスフォードエコノミーと共同で開始した生活調査(※)によると、日本はデジタル化に対する不安が大きく、デジタル許容度が10ヵ国中9位となっています。上位は、中国、アメリカ、イギリスです。
加えて、日本の広告市場自体を見ると、電通・博報堂・ADKといった国内ローカルの広告会社が市場シェアを大きく押さえています。韓国もかなり国内勢が強いですが、それ以外の国では、欧米の広告会社とその国ローカルの広告会社が競い合っているのが一般的です。
そうした点で、日本はかなりユニークな広告市場なので、たとえば広告費のトレンドにしても、欧米各国に似通うほど日本は同調していません。それでもやはり、ここまで経済がボーダレスになってくると、独自路線で良かったひと昔前の時代には戻れないでしょう。
日本企業も含めてグローバル化はもはや一定のトレンドとして今後も広告ビジネスに影響を与え続けるので、現時点で世界の広告市場が直面している問題について、近い将来に日本も同じ道筋をたどることは避けられないと考えています。
(※)アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、ロシア、オーストラリア、日本、中国の10ヵ国、計2万人を対象とした調査(Ad Spend Report January 2019)。
世界の広告会社が抱える課題を他人事と捉えてはいけない
――具体的には、どういった問題がありますか?
頼:前述のブランドセーフティーや個人情報保護の問題はそのひとつですね。それから、欧米の広告主企業やマーケターのトレンドとして、広告会社に任せていたマーケティング活動を一度インハウス化し、改めて見直そうという流れが起きています。これは日本でもこれから動きがありそうだと見ています。ここには、コスト的な理由のほかに、データや知見を専門組織に貯めて、活用していこうという意図があります。
――そうなのですね。そうしたトレンドを把握していないと、広告会社としては急に取引先を失うことにもなってしまう、と。
頼:そう言えますね。ほかにも、欧米ではコンサルティング会社の広告領域への進出がかなり進み、競争が激化しています。日本でも数年前からコンサルティング会社の広告領域への進出が出てきていますが、欧米ほどは直接競合する動きが大きくなっていません。
総じて、今世界の広告会社、広告業界が直面している様々な課題やチャレンジが、日本の市場ではまだ他人事に捉えられています。ですが、このままのスタンスだと非常に厳しいと思います。電通も自戒を込めてですが、国内だけを見るのではなく、課題への対策を世界標準で考えていく必要があると考えています。