GAFAとBATの驚異的な影響力
――逆に、日本が先陣を切れるような要素はあるのでしょうか?
頼:たとえば、ネガティブ要素として捉えられがちな少子高齢化に注目すると、日本が世界に「成熟社会における広告マーケティング」の好例を示せるのではと思います。少子高齢化を迎えているのは日本だけでなく、中国を含めて先進国の多くが直面しているので、最も進んだ日本がロールモデルを確立する意義とインパクトは大きいはずです。
――先ほど、ビデオ広告に広告費が流れているというご指摘がありましたが、グーグルやFacebookなどプラットフォーマーの存在も広告費の成長に大きく影響していると思います。その影響の度合いをどのように捉えていますか?
頼:2017年度の世界のデジタル広告費成長率が15%だったのに対し、いわゆるGAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)と中国のBAT(Baidu、Alibaba、Tencent)に絞ると、その成長率は30%以上にも上ります。アメリカでは、グーグルやFacebookに比べると、Amazonが広告ビジネスに遅れを取っていましたが、ここへきてAmazonの広告市場における存在感が急速に高まっています。恐らくあと1~2年のうちにGoogleやFacebookと肩を並べるほどのプラットフォーマーになるだろうという予測がいくつか出ています。
また2017年の社内資料データによると、中国ではAlibabaとTencentが約半数の伸び率と驚異的です。デジタル広告の成長率が2桁、広告市場全体が1桁なのに対し、広告会社単体で見るとマイナス成長なので、中国の広告主およびマーケターの大半の投資がこの2社に集中しているのは明らかです。
「原点回帰」が広告業界のひとつのキーワード
――中国の動向が、世界の広告市場に大きな影響を与えそうですね。
頼:そうですね。GAFAが欧米で勢力を広げたとしても、中国政府がGAFAの進出を規制しながらBATのデータ活用を支援し、ひとつのデータビジネスのデファクトが確立されたら、そのインパクトは大きい。今後のビジネスの中核を担うデータビジネスが、中国で一気に進むでしょう。中国では、人々の生活も劇的に変化しています。たとえば日本であまり進んでいないキャッシュレスに関しても、あっという間にスタンダードになりました。
いずれにしても、どのプラットフォーマーがデータの覇権を握るかで、世界の広告市場は大きく変わると見ています。

――では、最後に広告会社としての今後の展望をうかがえますか?
頼:データ活用については、電通グループも「People Driven Marketing」を標榜し、生活者に最適なメッセージを届けることに力を入れています。各プラットフォーマーの動きも注視しながら、ビジネスをリードできる存在を目指していきます。
ただ、データはたしかに今後ビジネスの通貨になりますが、それだけに支配される業界や世界を、個人的にはよしと思っていません。近年、KPIや売上偏重でプロモーション重視の広告が発展しましたが、だからこそ長期のファンをつくるコミュニケーションやブランディング広告を見直す必要もあるのでは、と感じています。
同時に、データを扱う者の倫理観や信頼性も重要です。今年の年頭にアメリカ広告業協会の会長が、広告業界全体でクリエイティビティや信頼性を改めて重視すべきだと提言しました。この点は同感ですし、またこうした部分は人材育成とも表裏一体です。今後、広告業の競争激化も予想されますが、原点回帰をひとつのキーワードにしながら、業界をけん引していきたいです。