広告予算の20%はアドフラウドの被害にあっている
MarkeZine編集部(以下、MZ):ここ数年、アドフラウドへの危機意識が、日本においても高まっているように感じますが、実際のところ、現状はいかがでしょうか。
佐々:残念ながらまだ高くはないですね。Gunosyさんのように、かなり早い段階から対策されているところもいらっしゃいますが、それはごく一部の企業です。被害は年々深刻になっているので、リスクを啓蒙していかなければいけないと感じています。日本の場合は代理店文化が強いので、代理店を通じてアドフラウド対策を提供していく枠組みを作っていく必要もあるでしょう。
MZ:自分たちは被害に遭っていないはず、と思われている企業が多いということでしょうか。
佐々:そうだと思います。しかし、今はどの企業も例外なく広告予算のうち平均20%近くは被害にあっています。多いところだと30%に上る場合もあるんです。利用する配信ネットワークによって多少変動はありますが、何も対策をしていない場合は、広告予算の20%は不正業者に盗まれていると考えたほうがいいでしょう。
昔は不正業者といえばアフィリエイターや媒体がメインでしたが、今は世界各国の犯罪組織が介入してきている状態です。仕組みを作ってしまえば、自動的にお金の流れができてしまう分野でもあり、特に対策が進んでいない日本は狙われやすい。社会的責任という観点からも、自社のお金が犯罪組織に流れないようにしっかりブロックしなければいけないなと。
MZ:なぜ日本ではそれほど対策が進んでいないのでしょうか。
佐々:他国と比べて、日本は信頼の文化が強いからではないでしょうか。あとは、広告全体の効果が悪くなければいいとか、自分たちのKPIが達成していればいいという意識が強いのもあると思います。全体の成果が良いんだから、わざわざ面倒な仕事を増やさなくてもいいのではないかという。
Gunosyがアドフラウドに気づいたきっかけ
MZ:なるほど。そのような意識を持つ企業が多いなかで、Gunosyさんは自らアドフラウド対策に取り組んだわけですね。
石渡:そうですね。アプリのインストール施策はGoogleやFacebookなど大手媒体での広告配信がメインだったのですが、ずっとやっていると天井が見えてきて。2017年5月頃から、海外のアドネットワークも増え始めたので、広告配信先を増やしてみたんです。
配信先を増やしてしばらくしてから、おかしな数字が発生していることに気づいたんです。私の部署ではアプリのDL数だけでなく、アクティブ率も一貫して計測しているのですが、明らかに挙動がおかしいユーザーが大量に発生していました。
MZ:挙動がおかしいというのは?
石渡:たとえば、健全な経路から獲得すると、毎日少しずつアクティブ率が下がっていくのが普通です。ただ、それがある日突然アクティブ率がゼロになったり、7日後にいきなりアクティブ率が80%になったりするユーザーが数百件単位で発生していたのです。当時、アドフラウド自体はなんとなく認識していた程度なのですが、これこそアドフラウドなのではないかと疑い始めたんです。
MZ:Gunosyさんのように、アドフラウドの発生に自ら気付ける広告主は少ないのでしょうか?
佐々:まだまだ少ないですね。インストール後、どのようなKPIを設定しているかにもよります。Gunosyさんのようにインストールからアクティブまで一貫して見て、厳密に数字を見ていれば気づきやすいかもしれませんが、そこまでできている広告主はあまりいません。
近年は、まるで広告主側のKPIを知っているかのように、回遊率や滞在時間を調整してKPIを達成させ、不正に気づきにくくさせるアドフラウドも出てきていますので、なかなか見分けるのは難しいでしょう。当社ではそのような巧妙な手口にも対応できるよう、詳細なログデータを取れる機能を実装しています。