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花王廣澤氏が若手視点で聞く、これまでとこれからのマーケティング

あなたは、メディアとは何か正しく説明できますか?【花王廣澤氏×高広氏対談】


ポケベルは、なぜコミュニケーションツールとなったのか?

廣澤:ここまでご説明いただいたメディアは産業の観点でした。一方、思想的な観点から考えると、マーシャル・マクルーハンのメディア論があります。彼は、人間の機能を拡張する物をメディアと定義しました。たとえば、テレビは視覚の拡張、自動車は人間の足の拡張と唱えています。

高広:そうですね。身体の拡張とかいう言い方をしますね。また、それを踏まえて、彼氏の時計を彼女が腕にはめたりするのは身体の縮小だと言える、といったことを唱えた社会学者もいます。他にもマクルーハンのメディアの捉え方としては、メッセージよりもメディアが大事、など、単純にメディアをビークルとして見ない、メディアそのものがメッセージなのだ、と言ったりしてます。彼は単に情報機器やコミュニケーションのチャネルを「メディア」と言ってるのではなく、より概念的なものとして捉えています。

 彼の生み出したメディア論の派生として、「ソシオ・メディア論」というものがあるのですが、おそらくマーケターにとっては、マクルーハンのオリジナルの「メディア論」よりも、こちらのほうが重要かもしれません。通常、我々はスマートフォンのような何かしらの情報技術があるとき、「情報技術=メディア」だと考えがちです。ところがソシオ・メディア論では、「ある情報技術が世の中のある文脈に埋め込まれたときに、表れる1つの姿がメディアである」と考えます。

 古い例を挙げると、ポケベル。「同じ情報技術」であったにも関わらず、当時のビジネスマンと若年層とでは使い方が異なりました。ビジネスマンにとっては会社との連絡ツールであり、会社に従属していることを表すいわば束縛のメディアだったのが、若年層にとっては恋人や仲間と連絡をとりあうコミュニケーションツール、いわば解放のメディアでした。

 モノは一緒なのに、使われる文脈が異なった。これなどは、「情報技術≠メディア」であり、「メディア」は情報技術の一つの見え方のことを指すという好例だと思います。なのでもうポケベルを知らない人がたくさんいるにも関わらず、例に挙げがちなのですが(笑)。

メディアを作るプロセスと、使うプロセス

廣澤:メディアの定義の次に伺いたいのは、メディアリテラシーについてです。所属する組織を公開した状態で発言し、個人の見解としながらも炎上してしまうケースを見かけます。これは、個人でもコンテンツを作れる(UGC)環境が整っているがゆえの弊害にも思います。この状態が「企業人としての立場と個人の立場が曖昧になる原因では?」と思うのですがいかがでしょうか。

高広:まずメディアリテラシーには、使いこなす能力と解読能力という2つのポイントがあります。特に前者におけるメディアリテラシーを学ぶ機会が、日本では少ないと思います。日本のメディアリテラシー教育と言えば、ジャーナリストの方や新聞者出身の大学の先生が、新聞をどのように読むかの話をするでしょう。ところが、昔からドイツなどのメディア教育では、動画をどう作るかについて教えるんです。

廣澤:動画の作り方を学ぶのですか?

高広:そうです。私が初めてドイツ人の教育者と話をしたときに、「どうやってメディアリテラシーを教えてるの?」って訪ねたんですが、返ってきた答えが「ビデオの撮影や編集の仕方を教えてる」と。こちらの想定していたのは情報の読み取り能力だったので、頭の中が「?」でいっぱいになりました。

 で、どういうことを教えてるかというと、たとえば1対1のインタビューで、片方がインタビューに答え、もう片方が頷いているシーンがあったりするじゃないですか。 普通に考えるとインタビューしてる側とインタビューされてる側のそれぞれに向けられたカメラがあるように思うんですけど、実はあれって、1台のカメラで撮影をしていたりするんですよ。じゃあ、その1台のカメラでそれぞれ二人の向きに振りながら撮影しているかというと、そうではない。なのにキレイに二人のインタラクションが撮れている。

 実はそれはそう見えるだけで、本当は撮影のテクニックと編集の結果。インタビュー中のたった一台のカメラは、インタビューをされる側に向けられていて、撮り終わってからインタビュワー(インタビューする側)が相手の話を聞いて頷いているシーンを別途あとで撮影している。それを、編集でつなげていたりします。こういう映像のテクニックも、自分たちが作る側・発信する側になるとピンと来るかもしれないですが、情報の受け手でありつづけるとわからないことなんですね。

 なので、先にあげたドイツ人から聞いたメディアリテラシー教育なども、その制作作業を通して、メディアで流れるのは加工された情報であるということを体験として理解するためのもの。そしてその結果として、情報の読み取り能力というメディアリテラシーを得ているわけです。しかし日本では、目の前にあるできあがった情報、インフルエンサーによる情報を真に受けて把握しようとする。手間だけど、自分たちが発信する側に立ってみるという、この辺りの理解が足りないから、メディアリテラシーに関わる問題が起きやすいのでしょう。作り手は受け手のことを理解しなければならないのと同様に、受け手が作り手のことを理解するのも重要だということですね。

廣澤:一部の広告代理店や企業の宣伝部、マーケティング部では、情報漏洩を防ぐため、WebサイトのアクセスやSNSの利用を制限していると聞きます。しかしそれは、使いこなし能力を学ぶことを避け、自分たちの情報の読み取り能力を減らし、結果として利活用の機会をなくしてしまっていると……。メディアは、使うプロセス、そして作られるプロセスの両方から身を持って体験しないと、肌感覚だけではわからないということですね。

高広:代理店界隈からはデジタル人材が足りないって声がよく聞こえてきますが、普段から社員が使いこなせる環境を作るほうが、新たに人を採用するよりも効果的だとは思います。

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デジタルネイティブが炎上する理由は?

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この記事の著者

マチコマキ(マチコマキ)

広告営業&WEBディレクター出身のビジネスライター。専門は、BtoBプロダクトの導入事例や、広告、デジタルマーケティング。オウンドメディア編集長業務、コンテンツマーケティング支援やUXライティングなど、文章にまつわる仕事に幅広く関わる。ポートフォリオはこちらをご参考ください。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2019/03/28 09:21 https://markezine.jp/article/detail/30579

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