サブスクリプションに欠かせない4つの要素とは?
西井:では、早速本題に入っていきます。今回、ぜひ意見を交換したいのが「デジタル時代のサブスクリプション」です。おそらく、昨今よく聞かれる「サブスクリプション」と従来の定期購入では、具体的に何が違うのか明確になっていない方も多いと思います。我々が定義する「サブスクリプション」とは、単に従来の定期購入がアナログからデジタルへ変わっただけのものなのでしょうか?
久保:僕の考えるサブスクリプションは、単に同じ商品を定期的に届けることではありません。デジタル時代のサブスクリプションには、「顧客の観察」「インサイトの蓄積」「商品や情報のアップデート」「普遍性」という4つの要素が必要だと考えています。
つまり、デジタル活用でパーソナライゼーションを行い、ユーザーごとに最適なメリットを提供できるのが今の時代のサブスクリプションではないでしょうか。
西井:なるほど。「顧客の観察」「インサイトの蓄積」に関して言うと、オイシックスでは閲覧や購入履歴などをもとに、食材宅配の定期ボックスへ提案する商品を少しずつ自動で変化させることができています。「CLAS」の場合は、どのようにインサイトを蓄積していますか。
久保:まだそのための手法を探っている段階ですが、「世帯構成」「部屋の間取り」「季節性」などはインサイトを蓄積する上で重要な要素だと捉えています。
家具の場合は、照明やファブリック(インテリアなどで使用する布類を指す)など、一つの家具を購入するさいに付帯して必要となる物が多いという特徴があります。
家具におけるサブスクリプションのチャーン(解約)手前の顧客心理は、「飽きた」「生活に合わなくなった」といったものが多いです。こうしたボトルネックに対して、ユーザーのインサイトを踏まえた新たな家具の提案、つまりアップデート性で解決していけるかがサブスクリプションを成功させるポイントですね。季節やライフステージの変化に対応して、正しくアプローチしていくことが大事だと考えています。
デジタル時代ならではの付加価値が求められる
西井:ユーザーのインサイトを見つけて、サービスをアップデートし続けることが大切だと。このアップデート性の高さは、アナログ時代では創出することが難しかった付加価値なのかもしれません。菊地さんはデジタル時代ならではの付加価値について、どう考えていますか?
菊地:情報メディアにおける付加価値はパーソナライゼーションだと考えています。その代表的な例がニュースのレコメンド機能ですね。先ほどチャーンの話がありましたが、「NewsPicks」では退会理由の一つに「配信されるニュースや記事を追いきれなくなったから」を挙げる方々もいらっしゃいます。
質の高い記事を数多く発信しても、ユーザーが1日に読める量には限界がある。これを踏まえて、「NewsPicks」ではユーザーの閲覧や行動履歴をもとに記事のレコメンドの精度を高め、ユーザーが優先的に読むべき情報を届けるようにしています。これは、従来の定期購読ではなかなか実現できなかったことではないでしょうか。
西井:情報を大量に発信するのではなく、情報を精査すると。
菊地:これまでは、新しい機能を追加したり、ユーザーの選択肢が増えたりと「プラス」の考えが付加価値として捉えられていたように思います。サブスクリプションにおいて、会員獲得後に考えなければならないのは継続率の向上。ユーザーの利便性を考えると、むしろユーザーにとって不要となる情報や機能をそぎ落としていく「マイナス」の視点が大切になってくるのかもしれません。
西井:ユーザーがニュースを選ぶ時間を省けるという点が付加価値になっているわけですね。家具を捨てる手間やニュースを選ぶ手間など、ユーザーにとっての日頃の課題をサブスクリプションで解決しようとしているのは、両サービスに共通しているポイントだと思いました。
久保:付加価値という文脈で付け加えるならば、僕は「普遍性」が求められていると考えています。ここでの普遍性とは、時代が変わっても一定の価値を持ち続けているモノを指します。
トレンドにそこまで左右されず耐久性も高い家具は、時流によって売れなくなる商品が少ないため、損失のリスクも抑えることができます。そのため、サブスクリプションとの相性も良い。これによって高い利益率を維持した上で、ユーザーへ新しい付加価値や顧客体験をお届けするという循環を作り出すことができます。単発購入とユーザーに提供する価値が変わらないのであれば、サブスクリプションを展開する意味はありません。