PRは広告か?を考える
廣澤:社会単位で考えることは、PR領域においても必要なのではないかと考えています。PRに携わる人でも、「話題になればOK」「とにかくバズらせる」といった発想でいたずらにおもしろくしたり、自分たちの商品・サービスの紹介に帰結したりと、社会を置き去りにした企画を考えてしまう人もいます。それでいいのでしょうか。
高広:そもそも、戦略や企画を考える人の認識を変えなくてはいけないでしょうね。具体的には「広告やPRで人を動かす、世の中を変える、認識を変える」といった、広告やPRの力でなんとかしようという視点ばかりに目を向けることから脱却しなければいけません。
その脱却のための思考が、数年前に『次世代コミュニケーションプランニング』という本で一部紹介をした「コンテクスト・プランニング」というもの。この「コンテクスト・プランニング」は2つで構成されていて、ひとつは、コンテクストを変えるプランニング、もうひとつはコンテクストに埋め込むというプランニングです。
「コンテクストを変えるプランニング」というのは、認識(パーセプション)を変えるプランニングにつながります。先ほども述べたように、人は解釈をしたがる生き物です。しかしながらその解釈は、何かを参照することによって成立しています。あるものに意味や価値を見出すときに、自分の過去の経験や世の中の風潮、友人との会話など、必ず何かを参照にしているはずなんですね。これを各人が考慮している「コンテクスト」だと考えると、その「コンテクスト」を変えることで認識や価値が変わることがある、ということです。
ロベルト・ベルガンティというイタリアの経営学者は「意味のイノベーション」という言葉で説明をしています。たとえば、ロウソクは昔は明かりを灯すという機能的な側面での意味を持っていたわけですが、現在のようにこれだけ照明が発達すると、明かりを灯すという機能において、ロウソクは意味を持たない。一方で、ロウソクがもたらす明かりはロマンチックな雰囲気を作るなど、過去に持っていた機能とは違う意味で捉えられている。
つまり、モノ自体のイノベーションではなく、モノの持つ意味が変わることをベルガンティは「意味のイノベーション」と名付けています。この意味のイノベーションが起きるのは、何かに対して「意味」を読み取る際に参照とされる「コンテクスト」の変化にあるだろうというのが僕の考えで、それを意図的に行うことを「コンテクストを変える」という言葉で表現しています。
本来「戦略PR」と呼ばれるものは、世の中に対してテーマや価値観、トピックという新しいコンテクストを提示することで、それらを参照してもらって、今までと違う認識を生み出すようなことだと思いますので、「コンテクストを変える」戦略のはずです。しかし、残念ながら多くの「戦略PR」の名を冠したプランが「戦術」に過ぎないのが現状でしょう。
もうひとつの、コンテクストに埋め込むプランニングについても説明します。広告やPRに携わる人の中には自分たちが作った戦略や企画で、人々を動かそうと考える人は少なくないと思います。ただ、これは「コンテクストを変える」というほうで、実際には成功の打率はそこまで高くはありません。
そこでもうひとつの考え方です。「コンテクストに埋め込むプランニング」というのは、人々の生活の中で起きている社会的なインタラクションの中にある「コンテクスト」をうまく活用しよう、というものです。既にある様々なコンテクストに商品やブランド、サービスを埋め込んだとき、その人たちに意図した形で解釈されやすいような企画をすることが2つ目のコンテクスト・プランニングであり、私は特に後者を最近重視しています。
