DMもリアルタイム&パーソナライズの時代に
本セッションでは、デジタル×アナログ施策の好例として、第33回全日本DM大賞のグランプリを受賞したディノス・セシールの取り組みも紹介された。
受賞した取り組みは2つある。1つ目は「ECと紙をリアルタイムで連携させたカート落ちDM」だ。これは、オンラインショップで1度カートに入れたものの買うに至らなかった商品が、24時間以内に紙に印刷され、DMとして届くというもの。デジタルと紙を融合させ、リードタイムを大幅に短縮した取り組みといえる。
2つ目は「小冊子DM」。たとえば、顧客がオンラインショップでスカートを購入すると、その情報を基にAIがSNSなどから収集した画像情報や自社のカタログ情報を照らし合わせて「このスカートを買っている人にはこんなアイテムも似合います」「我が社にはそのアイテムに似たこんな商品があります」と提案する。その提案内容をまとめた小冊子が、DMとして届くというものである。
同イベントで数年間審査委員長を務める恩藏教授は、受賞の理由をこう評する。
「昨年までは、ユニークな素材を使ったDMなど、目で見たり耳で聞いたり手で触ったりして、五感で作品の良し悪しを評価できるものを取り上げてきました。ところが、今年受賞したディノス・セシールのDMは、説明を受けるまでその良さがわからない。そういう時代になってきているのです」(恩藏教授)
また鈴木氏も、受賞作品について次のようにコメントした。
「この取り組みのすごいところは、需要をコントロールすることなく、サービスが成立している点です。明日ハガキが何通出るかは誰にもわからない状況で、仮に郵送単価が1通なら100万円で100万通なら10円だった場合、実施企業側はとても予算化できませんでした。しかし、今はそれが実現できる郵便サービスが生まれているのです」(鈴木氏)
鈴木氏は、ユーザーの行動がトリガーとなって施策が走ることを「ユーザートリガー」と表現。ユーザーがサイトを訪問すればリターゲティングが走るように、デジタルの領域で、ユーザートリガーは当たり前に行われている。今はデジタルに限らず印刷物の領域でも、ユーザートリガーでリアルタイムにパーソナライズができる時代になった。ディノス・セシールの取り組みは、そのことを象徴する好例だ。
「ECとリアル店舗の融合」は手段でしかない 真のオムニチャネルとは
講演の最後に鈴木氏は、マーケティング領域で定着しつつある「オムニチャネル」という言葉の意味するところを、次のように語った。
「オムニチャネルという言葉が意味するのは『ECとリアル店舗の融合』ではありません。それは単なる手段で、真のオムニチャネルとは『生活者が欲しいものを欲しい時に欲しい方法で手に入れられる環境を作ること』です」(鈴木氏)
鈴木氏は、「広告は邪魔者」と捉えられてしまう理由を「欲しくない情報を欲しくないタイミングと方法で押し付けているから」だと強調。しかし、データを使えば、ユーザーが何をどのタイミングでどのように欲しがっているかわかるはずである。
その上で、テレビや店頭、コールセンター、DM、OOHといったすべてのタッチポイントを統合して設計することではじめて、真のオムニチャネルが実現するのだ。鈴木氏は、「大きい会社になればなるほど組織が細分化されているため難しいと思いますが、頑張って取り組みましょう」と参加者に呼びかけた。
さらに、恩藏教授は、米国の取り組みを例に、日本でも産学連携を強める必要性を訴えた。
米国の「ジャーナルオブマーケティング」という世界的に権威のあるマーケティング論文誌では、毎年掲載されている100本程度の論文のうち、約半分が産学連携によって書かれたものだという。また、MSI(Marketing Science Institute)という世界のマーケティング研究の潮流を作っている機関でも、企業が出した研究課題に研究者が取り組むという流れが確立されている。
恩藏教授は、日本郵便との協同実験について「私たちが行ったのは決して特殊なことではなく、世界的に見ればスタンダードになりつつある動きです。皆さんにも、パートナーとなる研究機関やキーパーソンを見つけて取り組んでいただきたいです」と語り、セッションを締めくくった。