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1人の顧客からアイデアを得て広げるN1分析とは? 『実践 顧客起点マーケティング』セミナーレポート

クーポンチャンネルで認知・未購買顧客を一般顧客へ

 もう1つのN1分析事例として、西口さんはスマートニュースにクーポンチャンネルを実装した際のマーケティングについて話してくれた。

西口一希さん

 もともと希望する声があり可能性を感じていたというクーポンチャンネル。芸人コンビの千鳥を起用したテレビCMで一気に認知拡大を図り、相当の投資をして一定の成果を収めたが、テレビCMとデジタル投資を継続して積み上げてもどうしても動かない認知・未購買顧客が多く存在し、この顧客層をどうすれば動かせるかが課題に挙がり続けていたそうだ。認知してくれているのになぜアプリを利用してくれないのか、それを知るためにN1分析を行ったところ、「20円や30円といった少額の割引ではアプリを利用しようとまでは思わない、半額なら使う」というアイデアを得ることができたという。

 そこで「半額」を強調したテレビCMを制作。また、使い方がわかりづらいという声もあり、同じCM内で使い方を説明することにした。実際には簡単なので、15秒のテレビCM内で十分に説明が可能で、かつ半額というメッセージも届けることができた。これにより、かなりの数の認知・未購買顧客が一般顧客になってくれたのだ。

 しかし、それでもまだアプリをダウンロードしてくれない人たちがいた。どうすればテレビでもデジタルでもコミュニケーションできない人の興味を惹くことができるのか? さらにN1分析をしてみると、その人たちはテレビは流し見で、スマホはデフォルトのアプリしか利用していないことがわかってきたという。そこで、その層が情報源として利用している新聞に着目、新聞広告と折込チラシを利用することに。このアイデアが活き、新規顧客を取り込むことができたのだった。

 以上のように、5セグマップ、そして9セグマップに顧客を分類することで、どの顧客に対して何をすべきかという焦点が見つかる。すると、アイデアが出てくる。アイデアをコンセプトに落とし込み、定量的にテストすることでどれくらい効果があるか予測できる。それによって経営判断ができ、投資が可能となる。しかも投資に見合った収益があるので、成長し続けれるというわけだ。

 ただし、上記の施策ではクーポンチャンネルをアピールしすぎたことで一般顧客のロイヤリティが低下してしまったという。全体的なブランド認知やブランド選好は向上したので、今後は統合マーケティングの知見をもとにブランディングに注力していきたいとのことだった。

西口さんのルーツとパラレルワールドの真意

 セミナー後半のクロストークでは有園さんが登壇し、本書を読んで抱いた疑問を西口さんにぶつけた。有園さんは、本書のようなロジカルな手法や考え方は若い頃からマーケティングに対する情熱やバックグラウンドがないと作り上げられないのではないかという疑問が湧いたという。

有園雄一さん
有園雄一さん

 だが、西口さんは学生の頃からマーケティングや経営を学んでいたわけではなく、あるきっかけがあってP&Gに入社し、そこからマーケティングについて学んでいったそうだ。そのきっかけとは、学生時代に起業した家庭教師の派遣事業でトラブルがあり、経営を学ばなければならないと痛感したことだという。

 そして西口さんは有園さんの「本書のN1は誰ですか」という質問に、29歳のときの自分だと答えた。つまり、同社で数多くの失敗を積み重ねていた頃の自分だ。特に印象に残っているのが、新商品の担当になったときのこと。新商品の開発とマーケティングを担当することになったものの、発売して半年足らずで撤退することになってしまったのだという。

 西口さんは「データやロジックには破綻がなかったのにうまくいかなかった」と振り返る。その経験があったため、次のチャンスをもらったときはデータを気にせず自分の好きなことをやってみたそうだ。すると、うまくいった。不思議な感覚だったという。

 有園さんから「29歳の自分に本書から何を学んでほしいか」と問われ、西口さんは「1人の顧客から始めること」と返答。1人の顧客を驚かせ、喜ばせるとだいたいうまくいくと。データだけを見るとどうしてもマス思考になり、最大公約数的な施策が多くなって鋭さを失ってしまう。たった1人に焦点を合わせるのは不安かもしれないが、それを検証し補強するフレームワークが本書で紹介している顧客ピラミッドや9セグマップだと来場者にメッセージを送った。

遠景
モデレーターはMarkeZine前編集長の押久保剛(左)が務めた

 また、有園さんは本書の「第5章 デジタル時代の顧客分析の重要性」で登場するパラレルワールドの考え方に注目。西口さんは、スマホによって旧リアルワールドに生きる人と新リアルワールドに生きる人の間に分断が起きており、それをパラレルワールドと呼んでいると説明する。

 旧リアルワールドとは情報源がマスメディア中心で、スマホはあくまで必要なときの連絡手段と捉える世界観。新リアルワールドは、起きている時間はほとんど常にスマホに触れ、友達と喋りながらスマホでは動画を観ているような世界観を指す。これは世代間の分断としても表れており、同じ物理空間に生きているにもかかわらず、上の世代には下の世代がどういう世界観で生きているのか見えず、逆もまた然りという状況になってしまっている。

 スマートニュースがテレビCMや新聞広告に取り組んだのも、こうしたパラレルワールドの考え方があったからだ。実は顧客ピラミッド、9セグマップ、N1分析は、世代間のギャップを認識しパラレルワールドを克服していくための手法として有用だと西口さんは言う。本書も第5章の内容から説明し、現在の状況において有効なマーケティング手法としてN1分析を紹介することも検討したが、最終的には本書の「アイデアとは何か」という説明から始める形に落ち着いたそうだ。

 クロストークでは他にも、スマートニュースをあまり利用していないと吐露した有園さんに対して西口さんが鋭くインタビューしインサイトを掴もうとする一幕もあった。まさにN1分析のリアルな現場を見ることができ、来場者にとっても印象的なシーンだったのではないだろうか。N1分析の詳細を学びたい方は、ぜひ本書『実践 顧客起点マーケティング』を読んでみてほしい。

実践 顧客起点マーケティング

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たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング

著者:西口一希
発売日:2019年4月8日(月)
価格:2,160円(税込)

本書について

たった一人の“N1”を分析する「顧客起点マーケティング」から未購買顧客を顧客化、さらにロイヤル顧客化する「アイデア」をつかむ。本書では著者の西口一希氏が確立したフレームワークの理論と実践を全公開します。

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この記事の著者

渡部 拓也(ワタナベ タクヤ)

 翔泳社マーケティング課。MarkeZine、CodeZine、EnterpriseZine、Biz/Zine、ほかにて翔泳社の本の紹介記事や著者インタビュー、たまにそれ以外も執筆しています。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2019/05/09 08:25 https://markezine.jp/article/detail/30846

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