お客様を置き去りにしないデジタル化を
――小売企業は他の業界と比べるとデジタル活用が遅れているような印象があるのですが、小売企業がデジタル活用を進める上で気を付けたほうが良い点はありますか。
自戒の意味も込めて私自身が気を付けていることを3つお話しすると、まず何よりもデジタル化することばかりに思考を巡らせないことが重要です。デジタル化を検討していると、いつの間にか最新テクノロジーを使った手段ありきで、目の前のお客様を置き去りにした施策が出てくることがあります。しかし、小売企業はお客様との最終接点を持っている使命を背負っている以上、お客様に寄り添った施策でなければまったく意味がありません。そこに立ち返ることが重要ですね。
2点目は、良いソリューションやパートナーを目利きする力です。自力だけでのデジタル推進には限界があるので、外部パートナーの力を借りるケースも多いと思いますが、その際に見誤った判断をすると、先ほどのお客様を置き去りにした施策に陥ってしまいます。
3点目は、サプライチェーンや実店舗の展開状況における現状と影響を的確に把握する力です。この力は小売企業の場合不可欠と言えます。まとめると、小売企業の場合、何でもかんでもとにかく新しいことを打ち上げれば良いというものではないんですね。
――自社の持っているアセットをしっかり理解するということですよね。
その通りです。極端な例ですが、AIを使ってどれだけOnetoOneに高精度なデジタルクーポンを配布しても、肝心の商品が店頭に置かれていなければ意味がありません。
「ファミペイ」で逆転サヨナラ満塁ホームランを
――ファミペイを提供していく中で、懸念している点はありますか。

お客様が何十年も慣れ親しんだ「財布、現金、ポイントカード、レシート」というお買い物体験に挑戦していくわけですから、それを超えるスマートフォンでのお買い物体験を作れるよう、しっかり店頭でのオペレーションまで徹底しないといけません。半年ごとに実施している加盟店向けの展示会があるのですが、今年はそこにデジタル戦略部も大きなブースを出展し「ファミペイ」の世界観を中心にご説明したのですが、非常に良い反響が得られており手ごたえを感じています。
――消費者に良いものだと理解してもらうのはもちろん、加盟店のオーナーやその中で働いているアルバイトの方の間で良いものだという共通理解を作ることが大事なんですね。
ファミリーマートの店頭で働いている方だけで25万人ほどいますから、その方たちに良さを理解してもらえれば、ご家族や友達はもちろん、店頭でお客様に自信を持ってお薦めしていただける。我々としてはそういった流れを作って行かなくてはいけません。
――最後に、今後の展望について教えてください。
ファミリーマートをデジタルに強い会社へと変化させたいです。そうならなければ、今後生き残ることはできないと思っていますし、それがお客様にとっても絶対に価値のあることだと信じています。
ありがたいことにファミリーマートは全国で1万7,000店舗を展開し、国内の大多数のお客様とリアルな接点を持っている。ファミリーマートが日本のお買い物におけるデジタルシフトを背負ってやるぐらいの意気込みで挑んでいます。
その一方で、変わることへの不安や大変さを感じている方も少なからずいると思います。不安や大変だと言う気持ちを超えてデジタル変革を実現するためにも、「ファミペイ」を中心としたデジタル活用は絶対に失敗できないという覚悟です。デジタルに出遅れているファミリーマート、今の私は9回裏、2アウト満塁という逆転のチャンスで打席が回ってきたバッターと一緒です。この非常に重要な局面で、絶対にランナーを返して逆転につなげなければと言う大きなプレッシャーはありますが、どうせなら逆転サヨナラ満塁ホームランを打ってやろうと思えるぐらい、とてつもなくやりがいも大きい。「ファミペイ」が成功か失敗かでファミリーマートがデジタルに舵を切れるかどうかが決まるとの気概で、引き続きアプリのローンチ準備に取り組みます。