※本記事は、2019年4月25日刊行の定期誌『MarkeZine』40号に掲載したものです。
キーワードは「地域密着」と「オープン主義」
株式会社ファミリーマート デジタル戦略部長 植野 大輔(うえの・だいすけ)氏
三菱商事(情報産業グループ)に入社。三菱商事在籍中、CVS事業にも従事。その後、ボストンコンサルティンググループ(BCG)を経て、2017年1月ファミリーマート改革推進室長に就任、マーケティング本部長を歴任後、2018年11月よりデジタル戦略室長に就任。2019年3月より現職。「ファミペイ」など自社デジタル顧客基盤をベースとしたデジタル戦略を手掛ける。
――現在のデジタル戦略部の前身である、デジタル戦略室を立ち上げた背景を教えてください。
デジタル戦略の強化を目的に、デジタル戦略室を設立したのが2018年11月のことでした。私はその当時マーケティング本部の本部長で、デジタル販促の企画・運用なども統括していましたが、経営陣から「全社のデジタル戦略を推進する専門部隊を作れ」と言われ、デジタル戦略室の室長に任命されました。デジタルシフトは経営の重要課題と認識しています。しかしながら、我々はデジタル化に対する取り組みが遅れており、周りに追いつけ、追い越せでやらなければいけない状況です。
――デジタル戦略室の立ち上げ以前に行っていた、デジタル活用について教えてください。
お客様接点として3つのデジタル活用を進めていました。1つ目は、SNSでの情報発信。2つ目は、キャンペーン時のネット広告の配信。3つ目はホームページおよびアプリの運用です。ただ、それぞれが部分的に対応していたところは否めず、アプリも顧客ニーズに応えた機能を十分に提供できているとは言えない状況でした。
――御社がデジタル戦略を推進する上で掲げているキーワードはありますか。
「地域密着」と「オープン主義」の2つです。「地域密着」は個店ごとに最適なサービス、コミュニケーションを行うことを指します。たとえば、ビジネスマンやテクノロジーに抵抗感の少ないお客様が多い都心の店舗にはセルフレジを積極的に設置する。一方でご高齢のお客様が多い店舗では、人とのつながりや会話などを大事にしたハイタッチのコミュニケーションを行いながら、デジタルサービスもお薦めしていくといったことが考えられます。各店舗で抱えている課題や必要なデジタル活用は異なるので、究極的には1万7,000パターンのデジタル活用が必要です。
一方、「オープン主義」については、自社開発のソリューションに閉じることなく、他社サービスともどんどん連携していくというスタンスを指しています。とにかく、ファミリーマートをご利用いただくお客様の利便性を徹底的に高める。そのためならなんでもしますし、デジタル活用に関しても様々なパートナー企業と進めていきます。
――最近では、DMや折込チラシ以外の選択肢として、位置情報を活用した広告、アプリでのクーポン配信などデジタルを活用した販促にも注目が集まっていますが、そのような取り組みは進めていますか。
テスト的なことも含めて、YouTuberの活用や、SNSを活用した広告やキャンペーンを行って来ました。位置情報を活用した広告配信を行ったこともあります。ただ、一人あたりのお買い上げ単価が約600円という世界で商売をしているので、外部のデジタルソリューションを活用した販促施策は、なかなかROIが合いません。季節商品や新商品の話題作り、売上の初速を上げるための燃料として有効なケースもありますが、平常的に行うとなるとなかなか厳しい。お客様とのデジタル上の接点は大きく増えているにも関わらず、外部メディアや他社のソリューションだけでは、会社の設定しているROIに合わないため、大きくデジタルに手が出せない状況なのです。
そこでデジタル戦略部ではまず、お客様との接点を持ったサービス、端的に言うと自社アプリの強化に注力しようと方針を固めました。ROIが合わないからと、この時代にデジタル上にコミュニケーションの接点を持たないのは極めて危険。特に小売企業は、スマートフォンを通じた接点が絶対必要と考えており、弊社はその中でもアプリに注力します。